断れなくてもOK。
言いたいことが言えなくてもOK。
だってそれには理由がちゃんとあるから。
クライアント側の人も、
支援者側の人にも役立つと思うので、
カナダ人のクライアントさんの
体験もお伝えしますね。
コンテンツ
断ることが出来ない、言いたいことが言えないのは当たりまえ?
まず、お伝えしたいことは、断ることが出来ないとか、言いたいことが言えない、それは自然なことなのです。様々な理由がありますが、子どもの頃、学生の頃、言わない方がよかった時代があったということだと思います。
「言わない方がよかった」
言わない方が賢い選択だったということです。なので、あなたはの選択は間違ってなかったのです。子どもや学生にとって、親や加害者、力のある人にはかないませんよね。そんな理不尽な人に、いちいち言い返したり、反抗してると、生きていけません。特に毒親や虐待の場合、自分の身を守るために、断らない方がよかったのです。
言いたいことを言わない方がよかった。まず、そのことを知ってほしいと思います。そう考えてみてはいかがでしょうか。このことを理解するために、私の過去のクライアントさんのことをお話ししますね。
断ることが苦手なクライアントさんの話(カナダ人)
カナダのブリティッシュコロンビア州で、カウンセリングをしていた時のクライアントさんの話です。トーマス(40代)は境界線を引いたり、断ることがとにかく苦手でした。彼はなかなか自分の意見などを言わない。それも当然で、加害者との関係において「健康な」選択肢などなかったのです。
彼は6才の頃から20年以上性的虐待を受け続けていたのです。トーマスは親に捨てられました。そして、加害者である近所に住む親戚のおじさんと同居することになりました。性的にも精神的にも、束縛や支配される生活でした。
トーマスは10年以上カウンセリングを受けて、グループセラピーでも他の男性サバイバー(男性の被害者)をサポートする「先輩」的な役割を担っていました。彼は支配的な加害者から距離を取れた後も、支配的な人が周りにいました。今は離婚していますが、過去に結婚した妻もとても支配的だった。
一見気さくな印象があり、対人関係や話し方からは20年以上の虐待を受けたとは想像しがたい人です。しかし、いったんその20年のことを話すと別人のように、苦痛な表情を見せました。そんな彼が今の生き辛さを語ってくれました。
頼みごとを引き受けてしまう
「僕は支配的な連中から距離を取るのが苦手だ。心の中で何度も断ろうと強く思っているが、口から出るのはオッケーと言って頼みごとでも何でも引き受けてしまう。
最近では別れた妻から電話がかかってくるかもしれないと、電話の子機を持って家の中を移動している。シャワーに入る時もです。自分でもバカバカしいと思っているけど、やめることができない。もし電話を取れなかったらどうしようと不安になる。」
トーマスの前の妻は支配的で、彼の「加害者」にもどことなく似てると言う。20年間という虐待されていた期間、彼は自分の意思を加害者に伝えることは一切許されていませんでした。断ることや意見することなどは、更なる痛みや苦痛を与えられる危険があったのです。
表現出来ない理由、言えない理由が伝わりました?
このような方の体験を読んで、あなたはどう思われましたか? 「20年間」という壮絶な虐待の体験に圧倒されたかもしれません。ということもあって、虐待の内容は敢えて詳しく書きませんでした。
トーマスの体験を読んだ支援者であれば、簡単に「断ることは大事です」「言いたいことを言えるようになりましょう」なんて言えないですよね。この部分がこの記事で最もお伝えしたい部分です。
もちろん、断れて、表現できるようになってほしいです。でも簡単には言えないのです。まずは「表現しない」「言わない」「断らない」この辺の彼の選択を承認することが大事です。過去はそうする方がよかった。そうするしかなかった。皮肉にも。
その部分に寄り添って、寄り添って、さらに寄り添って、時に何年もかかってやっていく必要があります。その後でようやく「表現する」「断る」「言いたいことを言う」などのことに取り組んでいくのです。取り組むというのは、練習というか、許可をもらってワークをしていくようなことです。
このようなアプローチは自然ですし、あなたが心理カウンセラーであれば、かなり考えさせられる機会になったのではないでしょうか。ずっと寄り添って、寄り添ってという部分が大事なのです。
言いたいことを言えるようになる心理カウンセリングの進め方
このような方のカウンセリングでは、クライアントがちょっとした意思表示をした時に、大事に大事にします。例えば、ワークの提案をした時に、ちょっと今はしたくないという選択を、全力で尊重します。
「伝えてくださって、ありがとうございます」というように。小さいことでもクライアントが意思を伝えてくれた時はとてもデリケートに扱うし、何としても尊重し、承認するようにします。
見捨てられ不安、言いたいことが言えない、トラウマ症状がかなり強いなどのクライアントさんの場合、決めたセッションの日程などを軽くこちらから変更することは絶対にありません。10数年やってきて、曜日や時間変更をお願いしたのは2回と記憶します。
私が高熱が出ていたか、体調がかなり悪かったのでした。それも1年以上もカウンセリングを続けているクライアントの場合のみそうさせて頂きました。
それでも、そのうちの1人のクライアントさんは、私が予約日を変更した後、次の回に決めていた予約の日時をやはり変更されました。伝わりますでしょうか? 1年以上もやっているから大丈夫と思っていましたが、それでもそうなのだと痛感させられました。
別に変更されることは、その人にとっては悪いことではないですよね。そのクライアントさんとは「変更する」「断られる」などのテーマを後のセッションで取り上げました。思い返すと、このようなクライアントさんでなくても、無理してでも予約、約束は守り抜いた気がします。
このような状態のクライアントさんでなくても、予約の日時を変更させて頂いたのは、十数年で10回以上はないと記憶しています。要するに1年で1回あるかないか、みたいな頻度です。
断れるようになるためにバウンダリーを構築
ここまでお伝えしてきたようなことを大事にもしながら、バウンダリーということをテーマに話し合ったり、心理教育したり、ワークなどをしていきます。
バウンダリーついては、他の記事でお伝えしたので、
こちらをよりどうぞ
本来育てられるべき、こどものバウンダリーを、加害者が虐待や性的虐待という形で壊してしまうのです。これにより、人との距離間が分からなくなってしまう。
性的虐待などのサバイバーさんの中には、初めて会ったのに自分のことをすべて話そうとしたりされる場合もあります。人との距離感のテーマですね。それ以外も例えば、「これでいかがでしょうか?」みたいなことを聞くと、必ずそうだと言う傾向もあります。OKを出すのが当たり前。
同意しないとダメだと思われている場合もあるということです。その辺を心理カウンセラーは、しっかりと知っておく必要があります。ちゃんと許可取ったから大丈夫と思っていると「とんだ勘違い」となるので、意識してみてくださいね。
とにかくそのようなクライアントさんには出来るだけ選択肢を提示することが大事です。可能ならセッションの時間や座るイスの選択肢なども。
セッション中、話すテーマも聞いてみたりする。でも多くの場合、表現出来なかったり、選べなかったりします。でも「それでもOK」ということをお伝えするが必要なのです。
今回の内容で「断れない」「言いたいことが言えない」「表現出来ない」などに対して、少しでも考え方、捉え方が変わったのであれば、嬉しく思います。