話さないクライエントさんはやる気がない?!|動機づけが低い人の対応法

「あの人は、やる気がない⋯⋯」 「あの相談者は、やる気が⋯⋯」

そのように言うことありませんか?

実際に言葉にしなくても頭の中で思っていたり。

自分自身にも「あ〜、私ってやる気がない⋯⋯」みたいに。

でも思うのです。やる気がない人ってどんな人? そんな人いない!(笑)

やる気がない状態に一時的になっているだけ。一時的な現象にしかすぎない。

24時間、365日やる気がない人はいません。

頑張り屋さんの支援者さんに特に多い傾向なのが、クライアントを厳しく見てしまうことです。

やる気がない人⋯⋯というカテゴリーに入れてしまう。

私たち支援者の生き方、価値観が、モロに出るところですね。

やる気がない状態の人、あまり喋らない人、その人たちをどのように理解すればいいのか?

どう対応すればいいのか? これは現場の支援を円滑にするためにも必須です。

ソマティック心理ではどのように捉えるのか? パーツ心理学では?

赤裸々な体験も語ってくださってるので、是非とも読んでいただきたいです。

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こんにちは。総合トレーニング参加者の「さくら猫」です。

カウンセリングには来たけど、あまり話そうとしないクライエントさんっていますよね?

来たからには話してほしいけど、話さないのはそれなりの理由や事情がきっとあるのです。

この記事では、話さないクライエントさんと会ったとき、どういう視点で見たらいいのか?

など、私の失敗談をまじえながらお伝えしますね。

 

「しゃべらないクライエントさんが苦手なんです」

 

ある日、新米心理士の後輩とケースの話をしていたときのこと。

「しゃべらないクライエントさんのときって、どうしてますか?

私、苦手なんですよ」

あ~、私にもそんなときあったなぁ。

いや、今でも時々あるけど(笑)

そういうクライエントさんは自発的にカウンセリングを求めてきたわけではないことが多い。

周りの家族や主治医に言われて、しぶしぶ来ていることが分かる。

「じゃあ、いきなり目標うんぬんなんて話せる段階じゃないですよね。私だったら・・・

『カウンセリングを勧められた時、どう思いました? 面倒くさい、行きたくないとかって思いました?』

って、尋ねてみるかな」と言ったのでした。

今でこそ「クライエントさんは抵抗を持っているのが普通」と思うようになった私ですが、

以前はこういう人は「やる気のないクライエントさん」のカテゴリーに入れていました。

 

 

動機づけが低いクライエントさんとは?

 

一般的に「動機づけが低いクライエントさん」と見なされるのは、

「話さない人」に加えて、次のような人。

  • 予約をしても連絡なしでドタキャンする人(それでも、また予約する人)
  • 宿題を出しても持ってこない、してこない人
  • 遅れてくるのが普通の人
  • 治してもらう気持ちが強い受け身の人

普段から主治医である精神科医とは、

クライエントさんについて「ああでもない、こうでもない」と検討します。

あるとき、いつものようにクライエントさんのことを話していたら、ズバリ言われました。

「さくら猫さんは、患者さんに厳しいですね」

ハッとしました。

 

 

言葉では「やる気がないクライエントさん」とは言っていなくても、

私の言葉の端々には「厳しさ」がにじみ出ていたのです。

それはきっとクライエントさんにも伝わっていたはず。

カウンセリングは周りから勧められてくる人ばかりではなく、自主的に希望する人もいます。

病院ではカウンセリング待ちのリストができているほどです。

なので、クライエントさんがいなくて困るということは起きません。

私はこの状況に完全にあぐらをかいていたのでした。

しかも「厳しい」と言われるまで、そのことに気付きもしなかったのです。

それはまるでデパートの中にあるレストラン街。

人の出入りが多いデパートのレストランでは、味がいまいちだったとしても買い物もご飯も

一ヶ所で済ませられるという便利さで客足が途絶えることはない。

今まで「質の高い心理士になりたい」と思って自分への要求水準を下げることなく、

いろんな学びをしてきたつもり。

でも、いつしか患者さんにも「質の高いクライエント像」を要求していたのです。

 

 

動機づけが高い人は理想的なのか?

 

では、「やる気が高いクライエントさん」のカウンセリングは進展していたのかというと、そうとも言い切れない。

教育熱心な両親の元で育って、いつも人目を気にして自分より人を優先するクライエントさんのケース。

私が出した宿題を毎回完璧なまでにこなして、申し分ありませんでした。

私も「よくできました」と言わんばかりに◎をつけるような気持ちで接していて、

気付かないうちにクライエントさんの過剰適応をさらに強化してしまっていたのです。

子どもの頃から抱えていたクライエントさんの「死にたい願望」はしだいに強くなって、

しまいには入院する羽目に。

クライエントさんに必要だったのは、宿題を真面目に仕上げることではなくて

「優等生の自分」から降りてサボってもいいと思えるようになることだったと、今なら思うのです。

 

 

ソマティック・アプローチから見る「やる気のない人」の対応

 

クライエントさんの動機づけが高いのが良くて、低いのが悪いとは、一概には言えません。

大事なのは、心理士がどういう視点でクライエントさんを見ているかという「レンズ」だと思うのです。

私にとっての一つの「レンズ」はソマティック・アプローチでした。

 

 

クライエントさんの状態を自律神経系の視点で見ること。

カウンセリングルームに入室するときの姿勢、イスの座り方、視線の使い方、表情の有無など。

言葉を発していなくても、身体全体がかもし出す雰囲気や空気感が

クライエントさんの「現在地」を物語っている。

話さないクライエントさんは、無表情でやる気がないように見えて、話しかけても反応が薄い。

ポリヴェーガル理論だったら、この状態を「背側迷走神経系のシャットダウンが起きている」と見る。

海底の深海魚が生存のために省エネモードで呼吸をするのと同じように、

話さないクライエントさんも必要最小限のエネルギー消費にとどめて生きている。

この視点がなかった頃は、クライエントさんから何かを引き出そうと躍起になって、

次々に質問して疲れさせていたのと思うのです。

当然、こんな感じでは初回セッションで終了です。

今は「どんな状態なのかな?」と思いを漂わせながら会うので、

クライエントさんが話さなくても「それもありだよね」と思って無理に変えようとしなくなりました。

 

 

パーツ心理学から見る「やる気のない人」の対応

 

ソマティック・アプローチと同じくらい、私を楽にしてくれたもう一つの「レンズ」はパーツ心理学でした。

たとえば、冒頭に出てきた、人の勧めで仕方なくカウンセリングに来たクライエントさん。

クライエントさんの中には「抵抗するパーツさん」がいるかもしれないと思って、

「本当は来たくなかった?」と声をかけると意外な答えが返ってきたりする。

「嫌だなと思ったけど、行っておいた方がいいのかなと思って」とか、

「面倒くさいとは思わなかったけど、気にはなっていた」とか。

動機づけが高いクライエントさんみたいに「こうしたい、ああしたい」とはっきり言わなくても、

「このままじゃいけない」とどこかで課題意識を持っていることが伝わってくる。

「抵抗するパーツさん」に寄り添っていくと、「よくなりたいパーツさん」が見え隠れするのです。

同じように、宿題をしてこないクライエントさんや、遅刻が多いクライエントさんも、

普段は「よくなりたい」と回復を望むパーツさんが前面に出ていても、

「よくなったら困る」と思っているパーツさんが背後にいるかもしれない。

クライエントさんは一人でカウンセリングに来ているけれど、

いろいろなパーツさんが家族のようについてきていると思うと、

相手に対しての接し方が違ってくるのです。

 

 

クライエント体験から見えてきたもの

 

困難なケースにも対応できるようになりたいと思って、

ソマティック・アプローチやパーツ心理学を学びはじめました。

動画を視聴したり、本を読んだり、どれも役立ちましたが、

一番の学びは自分自身がクライエント体験をすることでした。

オフィスPomuの総合トレーニングでは、

自分の身体感覚や自律神経系の状態に意識を向けたり、

自分の中に住むパーツさんと対話をしたり、まず自分が体験していきます。

「人と話したいとき」もあれば、逆に「話したくないとき」もある。

「意欲にあふれて前向きなパーツさん」と「さぼって何もしたくないパーツさん」が

交互に出てくることもある。

自分の神経系の状態、さまざまなパーツさんの存在に気付いてはじめて、

クライエントさんのことも「やる気がある人・ない人」と簡単にくくれないことが

理解できるようになってきたのです。