トラウマセラピーのリソース構築|船旅の話(第1話)

 

心理セラピーにおいて、対人支援全般において、リソース構築は必須です。

ありとあらゆる準備をし、強みや資源を見つけていく作業。

60回のセッションをやるなら、最初の30回リソース構築です。

でも、そんな大事なリソース構築が、この業界では軽視されています。

物語を通じて、リソース構築の注意点、エッセンス、ヒントをお伝えしていきます。

 

リソース構築|旅立ち

 

ある日、山口さんとポム(愛犬)が、旅に出ることに。

山に行く? 海に行く? ポムは「海」と言った。

1年間、準備をしたのだった。

様々な知識を得て、食料や物資を揃え、船旅の経験も積んだ。

ついに船で太平洋を横断することに。

レッツらGO〜!

 

 

船旅は順調だった。

だが、ある日、嵐に遭遇したのだ⋯⋯

船の安定とポムを守るために必死になって、格闘した。

しかし、波が高すぎて、ついに船が!ひっくり返ってしまった。

山口さんとポムは海へほうり投げられ⋯⋯

ポム〜!と叫んだ⋯⋯

波に飲まれて⋯⋯

 

眩しい光と共に、目が覚めると、

そこは、砂浜のビーチだった。

なんとか立ち上がり、周りを見まわしたが、

ポムや船の痕跡は、なにもなかった。

呆然としたまま、そこにへたりこんだ。

数時間が過ぎ、ようやくあたりを歩き始めた。

どうやら、どこかの島に漂流したらしい。

強い日差しと喉の渇きに意識がもうろうとしてきた。

探しても、探しても、飲めそうな水がない。

 

数日、探し続け、ついに水たまりを発見。

少し濁ってる水をごくごく飲んだ。

究極に喉が渇いてる状態だったからこそ、

濁った水が全身に染み渡る〜

本当に苦しい時にこそ、水というリソースが染み渡る⋯⋯

 

 

トラウマセラピーにおけるリソース構築が難しい理由

 

本当に苦しい状態にならないと、本当に必要なものがわからない。

対人支援者のほとんどは、毎晩フラッシュバックで苦しんでいない。

だからこそ、そういう人に何が必要なのかが、わからない。

だからこそ対人支援でリソース構築が難しいのか⋯⋯

 

山口さんは、水を飲みまくって⋯⋯

ポム⋯⋯

微かに、そう呟きながら⋯⋯

気絶した⋯⋯

 

 

心理セラピーで、リソース構築は最も大事なこと

 

安全にやるためにも、効果的にやるためにも、リソースは必須。

なんとか飲み水を確保できたが、もう1週間も何も食べていない。

山口さんは毎日毎日、無人島を歩きまわった。

でも、食べれそうなものが全くないのだ。

歩いても歩いても何もないのだ。

心身ともに疲れ切って、その場に崩れ落ちたのだ。

あ〜この場所で人生を終えるのか⋯⋯

船旅になんて来なきゃよかった⋯⋯

ん!? なんだ!?

地面をよく見ると⋯⋯ 土ではない何かが⋯⋯

土まみれになってる⋯⋯ 掘ってみると⋯⋯ 

にんじん!?

なんで? こんなとこに?

畑でもない、ただの土の中に。

 

 

近くの場所も掘ってみたら⋯⋯

にんじんが10本ほど見つかったのだ!

ニンジンがある理由は、どうでもよくて、

山口さんは、とにかくニンジンにかぶりついた。

そこのニンジンは、今まで食べたことない味だった。

美味しくてジューシーだった。

ムシャムシャ食べまくって、お腹が満たされると⋯⋯

急に、孤独感と絶望感が襲ってきた。

ポムは死んでしまった⋯⋯

なんでこんなことに⋯⋯

そうしてると、そのうち、体に異変が⋯⋯

強烈な吐き気⋯⋯

体が動かない⋯⋯

ワカメ食い過ぎて脱水症状で、ぶっ倒れた時の感覚がフラバ⋯⋯(笑)

10日間も、なにも食べてない状態で、

一気に食べ過ぎたのだ。

山口さんは、そのまま気を失った⋯⋯

ポム⋯⋯ ごめんよ⋯⋯

目が覚めた時には夜だった。

気絶してた時に夢を見た。

ポムが出てきて、こう言ったのです。

リソースは探せば、きっとある。

探し続けるのだ。

足元に埋まっている。

生きてきた歴史に埋まっている。

そして、少しずつリソースを取り入れていくのだ。

リソースは強烈な刺激になる。

少しずつだワン⋯⋯

ポム〜

山口さんは、ぼーっと

夜空の星を眺めていた⋯⋯

 

 

リソース構築を失敗しないために

 

無人島に漂流してから30日がたったのです。

ニンジンがたくさん育ってる所を拠点にして、

山口さんは島を探索し続けてたのです。

でも、島が大きくて全体像が不明だった。

歩いても歩いても森だった。

ある時、山口さんはニンジンに飽きてしまい(笑)

ニンジンを持って、もっと遠くまで探索することに。

森の奥へ奥へと毎日毎日歩き続けた。

ついにニンジンもなくなり、

戻るか進むかの選択に迫られた。

一人でニンジンを食べるだけの生活⋯⋯

ヤケクソになって奥へと進むことに。

全く食べずに数日間、歩き続けた。

あと何日歩くんだよ⋯⋯ 諦めかけた時⋯⋯

目の前が開けていった。

ビーチについた。

そこにはフルーツが実っていた。

 

 

みたこともないフルーツだった。

喉の渇きと空腹で、かぶりつきたくなった。

でも、毒が心配。

まずはフルーツの皮と実を自分の皮膚に、こすってみた。

大丈夫だった。

次に、舌にも同じようにした。

大丈夫だった。

1cmくらいのかけらを食べてみた。

大丈夫だった。

半分食べても大丈夫だった。

なので、フルーツを一気に2個食べた。

むちゃくちゃ、うまかった。

人生で食べたフルーツで一番美味しかった!

でも、数時間後、お腹を下し、嘔吐した。

色々試して、山口さんの体には1個ずつなら大丈夫だとわかったのです。

ニンジンを食べるだけの生活。

それから、

フルーツを食べるだけの生活。

何も変わってない!(怒)

いったい、なんなんだ〜!

山口さんは孤独と絶望感でボーッとしてきた⋯⋯

 

フルーツは自分を守るために毒を持っている⋯⋯

少しずつ適量を見つけるのだ⋯⋯

リソースも同じ。

リソースの背景には必ずトラウマがある⋯⋯

その人にとって適量を見つけるのだ⋯⋯

少しずつリソースを増やしてくのだ⋯⋯

 

そんな啓示があったのだった。

1ヶ月も経つと、山口さんの体は、

一気に2個食べても大丈夫になっていた。

そんな嬉しさと共に、海を眺めながら⋯⋯

「ポム〜」と呟いた。

 

 

リソース構築で人は楽になる|無人島に来て60日目

 

山口さんは、フルーツを食べるだけの毎日を送っていた。

辺りを散策してもビーチと森ばかり。

途方に暮れて海を眺めていた⋯⋯

今回の出来事を振り返っていた⋯⋯

1年間かけて船旅の準備をしてきた。

そして海で遭難。

無人島での60日。

そして思う。

あの1年間の準備は的外れだった。

精神を鍛え、基礎体力をつけたことは良かった。

船旅でもこの無人島でも役に立ってる。

でも、準備のほとんどが、海の知識、船の知識、ばかりだった。

 

 

無人島に漂流する想定を、全くしてなかった。

サバイバルの知識や経験を、全く準備してなかった。

山口さん想像力がない〜!

勘違いヤロー!(笑)

食べれる草やキノコを見分ける方法とか。

家をDIYする知識とか。

森を探索する経験とか。

想像すらしてなかった。

そんな後悔をしながら、海を眺めていた。

そうすると⋯⋯ 急に眠気が⋯⋯

 

極限状態になると、意外なことが必要なのです。

トラウマに入る前には、様々なリソースという準備が必要。

その人が、すでに持ってるリソースを再確認することも。

新しく一緒に時間をかけて、リソースを準備していくのです。

感情に向き合い、身体感覚を研ぎ澄まし、思考を観察する。

様々なレベルで、様々な分野で、準備がいる。

必要なことは人によって違うのです。

だって生きてきた歴史が違うから。

 

そんな啓示が降ってきた⋯⋯

山口さんは目が覚めて、こう思った。

なんだこの島は?

ありがたい教えが降りてくる。

この島の不思議な力なのか?

もしくは、私の精神状態が啓示を引き起こしてるのか?

もうわからん⋯⋯

はぁ〜

ポム⋯⋯