対人支援において、「見立て」は、とても大切なものです。
相談者のことを、正しく理解できなければ、本当に必要な支援は、届けられません。
でも、その見立て方は、一つではありません。
様々な視点から、見立てることができます。
生きづらさを抱えていた、20年前の自分、という設定で、
個性的なセラピストたちを訪ね歩く物語です。
見立てとは、一体、何なのか。
この記事を読むと、あなた自身の見立てにも、
新しい視点が、加わっているはずです。
コンテンツ
効果的な見立ての方法(セラピーを体験する)
30歳の山口さんは、カナダのバンクーバーの大学院で、勉強していました。
肩こりと頭痛を、抱えていました。
頑張りすぎてしまう自分を、何とかしたくて、
カウンセリングに行くことにしました。
ポム(愛犬)を連れて向かった先は、大都会にそびえる、30階建てのビル。
30階に着くと、しばらくして、案内されました。
部屋のドアを開けた瞬間、一枚の大きな窓から、
街を一望できる、絶景が広がっていました。
思わず、息をのみます。
その絶景の手前に、背の高いスーツ姿の男性が、立っていました。
後ろの壁には、資格の証書が、10個以上並んでいました。
挨拶を済ませると、ポムが、かばんの中で、もぞもぞと動きました。
ポムを、出してあげます。
「あ、うちでは、かばんやゲージから出すことは、ご遠慮いただいています」
かばんの中に、ポムを戻しました。
ポムは、ぷんぷん怒ってる。
セッションが開始され、家族構成、
父親はどんな人だったか、母親はどんな人だったか、
幼少期は、どう過ごしてきたか、
次から次へと、質問が続きます。
山口さんは、90分間、答え続けました。
答えるたびに、山口さんは、どんどん力んでいきました。
厳しい親のもとで育ったこと、
スポーツをやってきたこと、こと細かく、分析されていきました。
最後に、セラピストが、見立てと、これからの治療計画を、口頭で伝えました。
セッションの最後に、今日のやり取りを、まとめた紙の束を、手渡されました。
「この分析をもとに、治療を進めたければ、予約ください」
そう言われ、山口さんは、部屋を後にしました。
一般的な見立てとは、こういうものです。
今の問題から過去を振り返り、原因を分析して、治療計画を立てる。
こういう視点は支援において大事です。
でも1回目に全部やらない方がいいと思います。
見立てに関しては、もっと他にも、大事な視点があります。
セラピーの帰り道、散歩のために公園に寄りました。
ポムはストレスを発散するかのように草の匂いを嗅いでる(笑)
山口さんは、圧倒されていました。
「理解は、できた」
「でも……なんか、鼻につくな、アイツ」
「でも、なんか、当たってるんだよな」
そう思いながら、家路につきました。
見立てのよくある間違い
前回のセッションは、家族構成を、細かく分析され、モヤモヤしたのでした。
だから、ポムを連れて、郊外の一軒家に、セッションを受けに来ました。
自然豊かな雰囲気の中、庭が広がっていました。
チャイムを鳴らし、家に入りました。
ソファには、白髪の、アーティスト風の女性が、座っていました。
横には、猫が一匹。
こちらの様子を、じっと見ていました。
「ポムを、出してもいいですか?」
「どうぞ」
出してあげると、ポムと、家の猫が、「ギー」と睨み合っています。
山口さんは心配そうでしたが、セラピストは、穏やかな表情のままでした。
山口さんは、頑張りすぎてしまう自分について、話し始めました。
セラピストは、時折、小さく頷くだけで、じっと、こちらを見つめていました。
しばらくして、山口さんが、一息ついた瞬間。
「あ、今、肩の力が、少し抜けましたね」
女性セラピストは、そう優しく言いました。
ドキッとしました。
そんなことまで、見られてるのか……
山口さんは、また悩みの話を続けました。
緊張して、覚醒レベルが、少し上がったときに、
「今、呼吸が、少し浅くなりましたね」
セラピストは、また、そう言いました。
でも、この人、話、聞いてるのかな?
こういうやり取りが、ずっと続きました。
ふと、時計を見ると、もう、残り5分でした。
「あれ、もう、こんな時間?」
気づけば、ポムと、家の猫は、いつの間にか、隣同士に座っていました。
もう、親友みたいでした(笑)
「そろそろ、時間ですね」
セラピストは、最後に、そう言いました。
次回の予約の話も、これからの見通しの話も、特にありませんでした。
山口さんの中には、違和感が残りました。
今、振り返ると、これが、神経系を見る、という視点だったのです。
セラピストは、今、この瞬間の体の状態を、観察しているのです。
このセラピストは、山口さんを、こう見立てていたのです。
「神経系が過覚醒気味で、力を抜くタイミングを見つけるのが苦手なタイプだ」
それを言葉で説明せず、その場のフィードバックだけを、淡々と返していたのです。
これは高度な技術でもあります。
こういうセラピーをやれるようになるには、
まず支援者自身が、自分の神経系や体を、繊細に観察する必要があります。
とはいえ、神経系の変化しか、言わへんのか〜い(笑)
帰り道、ポムと一緒に、自然の中を、穏やかに散歩しました。
山口さんは少し、穏やかになっている自分に、気づきます。
でも、「なんだか、よくわからないセラピーだったな」
そんな、釈然としない感覚が、残りました。
意外な見立ての方法(セラピー巡り)
前回は、神経系を見るセラピストのもとで、
「楽にはなったけれど、何だったんだろう」という感覚を抱えたのでした。
別のセラピストを試すことにしました。
今日は、ポムを連れて、住宅街のマンションへやってきました。
チャイムを鳴らし、部屋のドアが開くと、目に飛び込んできたのは、
キティちゃんでした。
壁には、キティちゃんのポスター。
棚には、キティちゃんグッズが、ずらりと並んでいます。
「いらっしゃい!」
金髪の、可愛らしい雰囲気の女性が、明るく迎えてくれました。
「はい、これ、プレゼント!」
いきなり、山口さんと、ポムに、キティちゃんのぬいぐるみを、渡してくれました。
ポムも、嬉しそうです。
少し気分が良くなります。
「キティちゃん、かわいいですね」
山口さんが、そう言うと、
「そうなんですよ、キティちゃん、好きなんです」
「顔がまん丸なところが、たまらないんですよね」
セラピストは、目を輝かせて、
キティちゃんの魅力について、しばらく語り続けました。
「それはそれとして」
セラピストが、切り替えるように言いました。
「まずは、山口さんの安心できる場所を、聞いてみたいんです」
「自宅のデスクですかね」
「あ、いいですね!」
そう共感してくれました。
「好きな食べ物は?」
「新鮮な野菜が好きですね」
「野菜、美味しいですよね!」
明るく返してくれました。
「趣味は?」
答えるたびに、セラピストは、明るく共感してくれます。
話しながら、山口さんは、だんだん、気分が良くなってきました。
「あれ?」
山口さんは、ふと気づきました。
自分は今日、まだ悩みをほとんど話していない。
なのに、なんだか気分は良くなっている。
「……これで、本当に大丈夫なのかな?」
そんな、疑問が、頭をよぎります。
そして、気づけば、「今日はここまでにしましょうか」もう終了時間でした。
少しの疑問とぬいぐるみを抱えたまま、山口さんは、部屋を後にしました。
このセラピストがやっていたのは、リソースを見る、という関わり方です。
どんな人にも悩みについて色々やっていくより、
リソースをやるという見立てなのでしょう。
ただ、決まった、いくつかの質問を、
マニュアル的に聞くだけでは、本当のリソースには、たどり着けません。
リソースを、深く見つめられない理由には、いくつかあります。
その一つが、自分自身の内面に、向き合いたくないという、支援者自身の傷つきです。
自分のリソースを、深く見つめられない人は、
他人のリソースも、深く見つめることが、難しくなります。
もちろん、経験が浅いうちは、
「私はキティちゃんが大好き!」という尖ったスタイルでもいいと思います。
リソースとは、その人の、内的世界を深く知っていくこと。
表面的な質問だけで、深められるものでは、ないのです。
セラピーからの帰り道、ポムが言いました。
「ポムのことは、全然、聞いてくれなかった……」
「確かに、そうだね」
「ポムは、大事な存在だよ」
少しの心地よさと、違和感を抱えながら、家に着きました。
頑張る自分を解放する方法
今日は、ポムと一緒に、1時間バスに乗って、別のセラピストを、試してみます。
山奥のバス停に着き、さらに、30分、山道を歩きました。
「よく来てくれましたね」
出迎えてくれたのは、白い装束に、数珠をかけた、髭の男性でした。
まるで、仙人のような、穏やかな雰囲気です。
景色がいい、緑あふれるテラスに、通されました。
しばらく、雑談をしました。
ふと見ると、ポムは、もう、瞑想中のように、くつろいでいます(笑)
「実は、頑張りすぎてしまうんです」
山口さんが、そう言いました。
「頑張るパーツさんが、いるんですね」
セラピストは、そう言いました。
「そうですね。頑張り屋さんがいます」
「あなたは、そのパーツと、共に、頑張ってきたんですね」
そう優しく寄り添ってもらい、山口さんは涙が出てきそうになりました。
セラピストは、続けました。
「あなたの中核には、セルフのエネルギーが、あるのです」
山口さんは、ポカンとしました。
セラピストは、ゆっくりと、続けました。
「そのセルフのエネルギーで、頑張ってきたパーツを、包んでみましょう」
山口さんは、なんとか目を閉じ、瞑想してみます。
「セルフ? エネルギー?」
そう思えば思うほど、ますます、分からなくなっていきます。
「今は、それで、いいんですよ」
セラピストは、小さく、こう続けました。
「答えは、きっと、もう少し先にあります」
山口さんは、心の中で、つぶやきました。
「今、なんとかしてほしいんだけど……」
腑に落ちないまま、セッションが終了しました。
このセラピストは、「パーツ」という視点から、山口さんを見立てていました。
パーツを、明確にする。そして、承認する。そして、解放する。
このセラピストは、パーツを明確にし、承認まではしてくれました。
でも、解放するという部分が、少し早すぎたのです。
そして、セルフのエネルギーで、パーツを包むという選択は、
今の山口さんには合ってなかったのです。
「セルフ」「エネルギー」という言葉は、その人に合わせて、伝えていくべきです。
ピンとこない人も、多いと思います。
このセラピストは、自分が解放されて、日常的に楽に生きてるから、
その感覚で、進めてしまったのです。
帰り道、山口さんは、なんとなく、瞑想状態のままでした。
ポムは、まったく歩きたがらず、かばんの中で、うとうとしていました。
ポムが、ふと、つぶやきました。
「エネルギーとか言わず、ただいるだけで、いいと思うけどな」
そんな2人で、山道を、歩いて帰りました。
4人の専門家が、教えてくれたこと(セラピー巡り)
山口さんは、4人のセラピストとの出会いを、振り返っていた。
一人目は、家族構成分析セラピスト。
今の課題と、過去が、つながっていることを、教えてくれた。
でも、なんだか、鼻につくよな。
ポムは、また、かばんに閉じ込められたら、嫌かも。
二人目は、神経系調整セラピスト。
身体や覚醒レベルの変化を、その都度、教えてくれた。
少しは楽になったんだけど、なんだか説明不足だった。
ポムは、あの猫ちゃんと、また会いたいかも。
三人目は、キティちゃんセラピスト。
話していて、どんどん心地よくなっていった。
でも、あれだけで、大丈夫なのかな。
ポムは、また、キティちゃんが欲しいかも。
四人目は、パーツ解放セラピスト。
頑張ってきた自分を、認めてくれた。
でも、エネルギーとか、解放とか、ピンとこなかった。
それに、少し苦しかった。
でも、ポムは、また、あの瞑想状態になりたいかも(笑)
それぞれ、良さもあった。
それぞれ、イマイチだと思うところもあった。
でも、どのセラピストからも、何かを受け取っていた。
でも、結局、自分自身が、なんとかしなきゃいけない。
もっと頑張って、4人のセラピストから学んだことを、少しずつ実践していこう。
そう決意して、ポムを見ると、グーグーと、昼寝をしています(笑)
「頑張る自分を手放そう」
そう意気込んでいること自体が、
いつもの山口さんの、一人で頑張るパターンなのです。
でも、山口さんは、まだ、そのことに、気づいていません。
家族構成、神経系、リソース、パーツ。
あなたなら、誰を選びますか?
この4つのアプローチを、自分の中に少しずつ育てていくことは、可能です。
経験が浅いうちは、1つのアプローチからでも、いいですよね。
少しずつ、増やしていけばいいのです。
ただ、大事なのは、アプローチを増やすことだけでは、ありません。
どんなセラピストとして、存在したいのか。
その「ありよう」が、大切なのです。
まずは、ありようという土台を、育てることが大事なのです。
ありようが育てば、相談者が鼻につかなくなります。(家族構成分析セラピスト)
ありようが育てば、説明できるようになります。(神経系調整セラピスト)
ありようが育てば、内面を深く見れます。(キティちゃんセラピスト)
ありようが育てば、解放を急がなくなります。(パーツ解放セラピスト)
やり方だけの問題ではなく、ありようの問題なのです。
そして、山口さんは、次のセラピーの予約をしました。
この4人のセラピストの中で、誰と継続することにしたのか?
ポムも、そのことを知って、嬉しそうにしています。








