信頼してもらえるカウンセラーになるには、大事なポイントが沢山あります。
カナダ時代のクライアントさんをご紹介しながら、本当の意味での「信頼」とは何なのか?
この記事を読むことで、少しでも信頼に関する理解が深まれば幸いです。
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信頼してもらえるカウンセラーになるポイント
1回目のセッションで「信頼関係を気づく」なんてこと言ったりますよね。中立的に共感と傾聴を心がけて。
もちろんこのことは大事なのですが、本当の意味での信頼関係を気づいていくのは、もっと時間と誠意が必要だと思っています。
ちょっと「ふんふん」話を聞いてくれたから、信頼なんかしないですよね。ちょっとだけ落ち着けるとかはあるかもですが(笑)
トラウマや長年の虐待で信頼することが難しいクライアントさんとは特に、信頼をゆっくり構築することが必要になります。
5セッションとか10セッションということではなく、30、50セッション、時には何年という時間の単位で構築するという視点が大事なのです。
何十年と悩んできたこと、数回のセッションで楽になるは表面的な部分だけです。虐待やトラウマからの後遺症、数年でよくなれば大成功だと思います。
そんな歩みの中、一緒に作り上げる信頼….
最高に美しい!
クライアントさんの頑張り、取り組み、コミットする姿勢に、感動するのです。私がカウンセラーやり続ける1つの大事な要因です。
信頼についての理解を深めるためにも、あるクライアントさんをご紹介させてください。
信頼することがテーマだったカナダ人のクライアントさん
カナダ時代のあるクライアント、モーリー(40代)と2年目のカウンセリングを続けている頃でした。彼は「ある程度」周りの近い人やセラピストの私に少しずつ信頼が持てると教えてくれました。
ある時、モーリーが私たちの関係をこう表現されました。
「僕は部屋の中にいて、ガラス窓を介してあなたと交流している感じです。同じ部屋で話すべきなのは分かっているが、なかなか出来ないのがつらい。それは孤独だし、いつも葛藤しています。」
私はその言葉に感謝し、共感しました。その後、この比喩を度々使うようになり「今日のセッションでは少し部屋を出れた気がする」というやり取りがありました。
彼の受けた性被害はとても暴力的なものだったのです。加害者は近所の男性や教会の神父だったのです。モーリーとは4年ほどカウンセリングを続けました。
その4年間、様々なことに取り組みました。リソースという意味で、安全を感じるワーク、リラクゼーションなど沢山のことを一緒に取り組みました。他にも、恥を解放したり、恐怖、強迫、バウンダリーなどについても取り組みました。
苦労の連続だった回復のプロセス
少しずつは回復のプロセスを歩んでいましたが、道のりは本当に大変だったのです。多くの苦労がありました。
例えば、その1つにアルコールによる肝臓の治療などで強い薬を1年半打ち続けたことで、調子が悪くなり、回復が停滞していました。
またある時には、カウンセリングを続けていく中で、全然改善されない時期もありました。
そのような取り組みの中でモーリーは言いました。
「性被害からくる生きづらさを乗り越えられたようには思いません。まだまだ回復の道のりは長い気がします。でも、そんな自分に親身になって、あきらめず回復の手伝いをしてくれていることに私はとても感謝しています。」
それから少しずつではあるが彼との「信頼関係」が深くなった気がします。何年という単位でみれば、あきらかに回復のプロセスが進んでいました。
部屋の中にいるというメタファーを効果的に使う
今から思えば、その時にやっていればよかったと後悔していることがあります。モーリーが言った「部屋の中にいる感じ」この部分をもっとリソースだと捉えることもできることを伝えれたと思っています。
さらに、この部屋というメタファーをもっと使って、展開していくことも出来たと思っています。意味があって、このような部屋にいる感覚を持ち続けている部分を認めるというようなことです。
4年たって、私の勝手な都合で日本に帰国することになり、カウンセリングを中止しなければならなくなってしまったのです。
試行錯誤の末、他のセラピストを紹介し、続けてくれると約束してくれました。このことを書きながらも、さらなる彼の回復を祈っています。
絶対に回復をあきらめないセラピストの姿勢を毎セッション貫いてこそ、「信頼」ということを少しだけ、わかることができるのかもしれない。
虐待による不信感や恐怖を乗り越える
「過剰な信頼」と「不信感」の二つがあります。大事なポイントなのでお伝えしますね。
過剰な信頼を認識する
虐待によって、自分の境界線を侵入され続けるというのがあります。そのため周りの人との距離がうまく取れなくて、要求などをすべて受け入れてしまうことも多いのです。
このような方と関わっていると、いっけん信頼してくれていると勘違いしてしまうことがあります。素直にカウンセラーの提案などに乗ってくれるので、信頼関係が構築されていると思ってしまうのです。
でも実は、大きな勘違いで、このようなクライアントさんは、同意していても、後で嫌な気分になっていることもあるのです。
不信感を認める
もう一方では、不信感や恐怖感が強いクライアントさんもおられます。怖さが根っこにあるから、周りの人や状況をコントロールするという傾向が強いです。
カウンセラーにも色々提案されたり、色々聞かれるのが怖くて、自分がセッションの主導権を握るということもあります。カウンセラーに話させないように、自分がとにかく喋るみたいなことも。
このような傾向に気づいてもらうことがまず重要です。そして、そうやってもいいということも伝える。他に何か調整したいことはありませんか? というような促しも必要でしょう。
恐怖が根っこにあって、不信感が強いと、そもそもカウンセリングを受けようとしない人も多いのではないでしょうか。大事なのは、不信感を持ったままでいいということです。信頼しなきゃとか思わなくてもいいと思います。
カウンセラーも信頼感を育てなきゃ、みたいに張り切る必要はないと思います。毎回のセッションを誠実に、効果的に進めていくことで、気がつけば、信頼が出来てきた、みたいなノリでいいのではないでしょうか。
不信感と信頼を行き来する
この両極端のどちらかに当てはまる方もいれば、両極端を行き来する方も多いです。
例えば、ある時はバウンダリーがわからなくて、すべての人の要求などを受け入れ過ぎて、しんどくなるのです。そして、それが嫌になり人との関係を一気に絶つのです。
そうやって引きこもって人と関わらない自分に嫌気がさして、また人と関わると….
同じように人の要求を受け入れてしまったり、人に利用されたりして、人と関わらくなるという繰り返しなのです。
だから、信頼することは、実はバウンダリーという「人との距離」と深く関係しているのです。バウンダリーを構築することがまず大事になってくることもある、という視点が必要です。
誠意も必要だけど、ありようがカウンセラーに求められる
誠心誠意、毎回のセッションに長年取り組み続けることで、信頼が少しずつ構築されていく、ということをお伝えしました。
ただ、そのようなことをやれる「ありよう」とか、ある意味の強い精神力や忍耐力が必要だと経験上思います。
これらを育てるのは、気合いと根性とか、辛いことに耐え続けて、身につくようなことでもないと思っています。
自分自身のトラウマや感情を解放したり、内面をみつめていくことも大事だと思います。そして、より自然体に楽に生きていることも大事です。
ありようも必要だけど、スキルも必要
ただ単なる自然体、素晴らしい人間性だけでは、もちろん不十分ですよね。
それを生かす経験やスキルが必要です。クライアントさんの変化を柔軟に、でも確実に変容されるサポート能力が大事なのです。
具体的なワークを提案することでもあるし、毎セッションの細かい促しや声かけもそうですよね。
信頼される支援者になるには、何が必要で、今何ができると思いますか?
信頼する関係を育てるために
カウンセラーも、クライアントも、両方の協力が必要です。必要なことを、カウンセラーが一方的に提供するだけでは成り立たないですよね。
お互いに信頼するということもありますが、その関係性の中で起こってくるプロセスを信頼するという視点も大事です。
クライアントはどのように変化や改善をしていくのか、ある意味見えないですよね。
カウンセラーでも、経験値からある程度の予測は出来ますが、どう変化するのかは見えていません。
そんな先の見えない道のりを、手探りで一緒に歩んでいくようなものではないでしょうか。
クライアントが見えている部分とカウンセラーが見えている部分、それぞれあると思います。一緒に協力すると「より」見えてくるのだと思います。
暗闇でも、2本の懐中電灯を2人で使えば、より明るいですよね。