attunement(アチューンメント)におけるカウンセラーの役割とは?

 

こんにちは。総合トレーニング参加者の「さくら猫」です。

Attunement(アチューンメント)。日本語では、同調、調和、適合という意味。

ある日、総合トレーニングで音楽療法士の先生が使っていた言葉です。

音楽の世界だったら、「楽器の音を調律する」みたいなことだと思うのですが、

カウンセリングにおいても外せない概念でした。

心理臨床においてのアチューンメントって、何なのか?

何にアチューンメントするのか? なぜアチューンメントが大事なのか?

この記事では、いろんな角度からアチューンメントを考えてみます。

 

アチューンメントの相手を間違う

 

クライエントさんに・・・

寄り添う

合わせる

チューニングする

言い方はさまざまですが、アチューンメントの大切さは心理士養成のトレーニングや研修でよく指摘されます。

聞き慣れた言葉になると「できている」気分になって、うっかりするとアチューンメントする相手を間違ってた、なんてことに。

そもそもアチューンメントとは、ラジオの周波数に指先を微細に動かしながら合わせるように、クライエントさんにチューニングしていく作業。

 

 

でも私がアチューンメントしていた相手は、クライエントさんではなかったってことがあるのです。

たとえば、病院で働いているとき。

主治医や看護師さん、場合によってはクライエントさんの家族と話し合うときに、「クライエントさんをなんとかしないといけない」と回復を急ごうとしてしまう自分がいる。

学校でスクールカウンセラーをしているときも、不登校の生徒を学校に来させようとする先生や保護者の雰囲気に飲まれそうになる。

私の中の「周りの期待に応えようとする心理士パーツ」が前面に出てくるのです。

そうなると、当のクライエントさんから見た心理士は「自分に寄り添ってくれない人」になって、初回面接で終了なんてことも珍しくありません。

 

 

効果的なアチューンメントのための3つのポイント

 

では、目の前のクライエントさんに効果的にアチューンメントするにはどうすればいいのでしょうか?

総合トレーニングで実践しながら学ぶ中で、私がたどり着いた3つのポイントについてお伝えしていきます。

 

クライエントさんのニーズに合わせる

クライエントさん自身のニーズに合わせるって、当たり前のようで意外に盲点が潜んでいます。

たとえば、うつ病で仕事を辞めたクライエントさんの場合。

「仕事を探したい」と言葉では言っていても、カウンセリングの終わり間際に「でも、治ったら困るんですよね」とポロっと本音が漏れる。

駆け出しの頃の私だったら「えっ、どっちなの?」と反応したことでしょう。

もしかしたらそれ以前に、そんな本音を吐かせない雰囲気をまとっていたかもしれません。

クライエントさんが言った「仕事を探したい」がすべてだったら、多分カウンセラーは必要ないのです。

「仕事を探したいけど、うつが治ったら困るんです」と、葛藤を抱えているから前に進めないのかもしれない。

ならば、葛藤を一緒に探求することがクライエントさんのニーズに合わせることになると思うのです。

 

クライエントさんの感情に合わせる

喜怒哀楽。

いろんな感情の中で、カウンセリングで扱うのは「喜」や「楽」ではなくて、「怒」や「哀」に代表される不快な感情が圧倒的。

憂うつ・不安・悲しい・困惑・怖い・うんざり・がっかり・屈辱感・落ち込み・不満・怒り・罪悪感など・・・

のどが渇いたら水を飲む

眠たくなったら寝る

同じように、悲しいことがあったら涙が出たり、意地悪されたら腹が立ったりするのは、不快な出来事に対しての自然な反応のはず。

だけど、クライエントさんは不快な感情を丁寧に扱ってもらった経験がないか、あったとしても極端に少ない人が多い。

不快な感情をきちんと承認してもらえないと、「こういう風に感じる自分がおかしい」と思うようになって、一人で抱えるのが普通になってしまう。

「自分は疲れてはいけない」と思っているクライエントさんも過去にはいました。

さらに病院で症状緩和のために薬が処方される場合は、クライエントさんは「この感情はあってはならないもの」と余計に思いがちです。

カウンセラーの役割って、クライエントさん本人でさえも忌み嫌っているかもしれない不快な感情を認めるところから始まると思うのです。

大事なのは、「感情を抑えてきたことで守ってきたもの」や「そうせざるを得なかった境遇」にまず寄り添うこと。

 

クライエントさんの覚醒レベルに合わせる

不快な感情が扱われないまま生きてきたクライエントさん。

そんな人がはじめてカウンセラーのドアを叩く頃には、感情の波はジェットコースターのように乱高下を繰り返すパターンか、高止まり、もしくは低空飛行状態のパターンになっています。

クライエントさんの周りの家族や知人、友人から見たら、もはや「そういう状態」ではなく、「そういう人」になっている。

カウンセラーができることは、たとえそれが今は手放したい状態であっても、クライエントさんが今まで生き延びてくるためには必要な最善のサバイバル策だったという視点を持つこと。

元気がなくて動きはゆっくり、口数も少ないクライエントさんは、神経系を低覚醒レベルにすることで、エネルギー消費を最小限に抑えて環境に適応してきたのかもしれない。

マシンガントークが止まらなくて、過活動なクライエントさんは、過覚醒レベルを保つことで不安や焦りを少しでも感じないように行動で対処しているのかもしれない。

クライエントさんを神経系の状態から捉えると、覚醒レベルに応じた対処がしやすくなるものです。

 

 

たとえば、低覚醒レベルの人の場合。

磁石のS極とS極を合わせようとしても一定の距離が保たれてそれ以上は近づかないように、クライエントさんの空間に入り込みすぎないように配慮する。

座る位置を真正面ではなく、斜めにしたり、問いかけを「どうですか?」とオープンな質問ではなく、「はい」「いいえ」で答えられそうな質問にする。

自分でスピードダウンできない過覚醒のクライエントさんの場合は、「ちょっと一緒に深呼吸してみませんか?」と促したり、こちらがわざとゆっくりした口調で応答してみる。

カウンセラーが相手の覚醒レベルに合わせられたら、クライエントさんは身体の内側から安心・安全を感じる機会に触れることになります。

 

 

なぜアチューンメントなのか?

 

ここまで、クライエントさんのニーズ、感情、覚醒レベルにアチューンメントすることをお伝えしました。

なぜ、この3つの視点からアチューンメントすることが大事なのでしょうか?

周波数が合わないラジオはノイズが入ってとても聞きづらいし、イライラして電源を切りたくなりますよね。

アチューンメントができていない状態のカウンセリングも、同じことが起きても不思議はありません。

クライエントさんにしてみたら、自分にチューニングしてくれないカウンセラーの所に行くのが嫌になってしまいます。

ただし、アチューンメントが目指すところは、クライエントさんをつなぎとめるだけではありません。

ある意味、クライエントさんは他者からアチューンメントをしてもらった経験が少ない人とも言えます。

それは自分の未熟な神経系だけでは泣きやむことができない赤ちゃんに似ています。

赤ちゃんは周りの大人の「よし、よし」のなだめる声や背中をさする手を通じて、安心して泣きやみますよね。

こうした大人との協働調整を何回も何回も繰り返しながら、未熟だった神経系が発達して自己調整できるようになります。

もはや赤ちゃんではなくなったクライエントさんを、同じようにあやして協働調整するわけにはいきません。

また、大人のクライエントさんの神経系パターンは出来上がっているものです。

だからこそ、丁寧に時間をかけてニーズ、感情、覚醒レベルにアチューンメントしていくことが大事です。

カウンセラーがアチューンメントするとは、そういう役割を担うことだと思うのです。