悩んでいるのは自分だけだと思う傾向があるクライアントさんは、一定数おられます。
その方には、カウンセラーが「他のクライアントさんも同じようなことで悩んでいる」ということをシェアすることが大事です。
カナダ時代の恩師の教え、クライアントさんのこともご紹介しながら、お伝えしていきますね。
まずは動画をどうぞ。
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より詳しく記事にしています。
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悩んでいるのは自分だけと思ってしまう傾向
大なり小なり悩んでいるのは自分だけだと思ってしまうことってありますよね。
そもそも、日常的に苦しみや痛みを感じているのは「自分」なのです。その辛い状況にいるのは自分なのです。他人の痛みや苦しみを自分のことと同じくらい感じるのは不可能です。
私たちは普段生活していると、自分の悩みや辛い部分に向き合うので「あたかも自分だけ辛いのでは?」という感覚と言いましょうか、錯覚に陥りやすいのです。
このご時世、そのような傾向が、孤独感を増大しているようにも思います。
他にも同じような悩みを抱えている人が多くいる、そのようにあらためて気づくだけで、少し楽になることもありますよね。
もう一つは、虐待やトラウマ、特に性被害など、ある意味の特殊な体験をすると、こどもにとってみれば「自分だけがこんな」という孤独感に陥りやすいです。
だから、そのような場合は、近くに寄り添ってくれる大人がいることがとても大きい存在なのです。
普遍化(ノーマライゼーション)を活用する
他にも同じような体験をした人がいる、というようなことをお伝えすることを「普遍化」と言います。英語のノーマライゼーションを直訳してみました。
ノーマルというのは普通という意味ですよね。普通化するみたいなことです。あなただけでないですよ、というメッセージをお伝えすることです。
様々な生きにくさを抱えている人にノーマライゼーションが必要な場合が結構あります。
ただ、性的虐待のサバイバーさんは特に、このことが一つの大事なポイントになります。
例えば、性被害にあった時に「性的に感じることは自然なことです」とお伝えします。
この一言で、抱えている苦しみが激減することもあります。
感じてしまった自分はおかしい、ということから、自然なことだったのだと思えることはとても重要なことです。
ノーマライゼーションを効果的にするポイント
実はたくさんあります。「性的に感じることは自然だ」「加害者の所に自分から行ってしまった」「ノーと言えなかった」というようなことも普遍化のポイントですね。
例えば、性虐待の時に、拒むことが出来なかった、ノーと言えなかった、というように自分を責めておられる場合が多いです。
でも身体のこと、脳のこと、シャットダウンのこと、この辺のことがわかると、抵抗できるわけがないのです。
こう出来なかった、というように自分を責め続け、恥の意識があり、孤独を抱えて生きることはとても苦痛ですよね。
だからこそ「あなただけではない」というようなノーマライズすることは、時に革命的な価値観の変化をもたらすことがあるのです。
カナダ時代の恩師が教えてくれたこと
男性サバイバーのための支援センターの代表のドンライト先生に教わったことは沢山あります。
その中でも、サバイバーの支援において、ノーマライゼーションがとても効果的で、大事なのだと何度も教わりました。
大学院生の頃、ドン先生の個人セラピーにオブザーバーで入らせて頂いた時に、こんなにもノーマライゼーションをするのかと驚いた記憶があります。
印象深いのが、多くのクライアントさんが安堵の表情をされることです。
ドン先生とはグループセラピーも一緒にさせて頂きました。そこでも先生はノーマライゼーションをされていました。ちょっとやり過ぎなのではと思った時もありましたが(笑)
日本でも、サバイバーの支援をはじめ、カウンセリング現場で活用する必要性がありそうです。傾聴中心だと、ノーマライゼーションをする時に、侵入し過ぎてる感覚になることがあるかもしれません。
引いてばかりのアプローチだと効果的なセラピーとは言えないと思っています。カウンセラーの「一言」が大きな変化を生む場合もあるのです。
グループカウンセリングが効果な理由
ノーマライズに関しては、グループのカウンセリングが一番効果的です。実際に同じようなことで悩んでいる人に直接会うことが効果があります。
グループで実際に目の前で呼吸をして、生きている男性サバイバーの話を聞くということは衝撃的なことなのです。
ライアン(40代)は、個人カウンセリングをしばらく受けて、その後、初めてグループに参加されました。
その時、生まれて初めて他の男性サバイバーに会ったのでした。目からうろこ、などという言葉では表現できないくらいのことでした。
ライアンは、とにかく呆気にとられた表情で、言葉がないと言いました。
ようやく落ち着きいたときにグループの皆に「どうして俺のことをすべて知っているんだ、という感覚になった」 と伝えました。
孤独に抱えてきた葛藤や感情を言語化
グループのメンバーの一言一言が、彼が一人で孤独に抱えてきた葛藤や感情を言語化してくれたとも言えます。
しかし何か言語化できない生命と生命、魂と魂の出会いみたいなことなのかもしれません。
この様な男性サバイバー同士のつながりは、私のような「普通の人」には完全に理解することはできないのです。
私はグループをやった時に、ふと「みんなの輪」に入れていない感覚になるときがありました。
それほど、男性サバイバーたちの作り出すグループは特異でもあるし、効果的だと実感しました。
彼らの孤独が少しでも少なくなればとの想いでグループセラピーを続けていたような気がします。
他のクライアントさんのことを話す
もちろんグループセラピーがベストなのですが、心理カウンセラーが「他のクライアント」さんの話をすることも効果的です。
守秘義務を考慮した上で、同じように苦しんでいる人がいるという話は、自分だけがこんな悩みを抱えているという人には必要です。
何歳とか、どこに住んでいるとか、詳細を話さなくても、何十人、何百人と同じような傾向の人とセッションをやってきました、というのはクライアントさんの孤独感を解消するサポートになります。
このようなノーマライゼーションは効果的でもあるのですが、注意も必要です。
普遍化をする(ノーマライズ)時の注意点
どんな注意が必要なのかと言うと、他の人も同じようなことで…. みたいな共通点ばかりを話すと、抵抗が起きてくるクライアントさんもおられます。
どのような抵抗かと言うと「自分の苦しみは簡単に他人にはわからない」「同じ苦しみなわけがない」というようなことが出てきます。
だから、共通点をお伝えしても、その方の独自性(その方の独特な苦しみや悩み)を一緒に共有することも同じくらい大事な時があります。
軽々しく、他にも同じような人がいる、というように言われると「簡単にわかった気になってもらっても困る」ということなのです。
共通性と独自性のバランスを意識して、臨床に取り組んでみられてもいいかと思います。
まとめ
ノーマライゼーションという心理教育を臨床で活用してみる。
その為に、守秘義務を意識しながら、他のクライアントさんの話をする。
クライアントさんに同じような悩みを持った人にあったことがあるか聞いてみる。
クライアントさんの悩みの共通性と独自性のバランスに注意する。