クライアントの被害体験を何度も何度も傾聴すると、支援者も計り知れない影響を受けるのです。
仕事を辞めたくなったり、PTSDに似た症状も発症するのです。
そんな二次受傷という分野は、海外でも長年研究されてきました。
まず、様々な言葉で表現されているので、整理して明確にします。そして、そもそもなぜ二次受傷になるのか?
さらに、二次受傷になってるかもしれないサインをリスト化します。最後に、どのように予防すればいいのか、を解説していきますね。
私自身の臨床現場での体験もお伝えしますね。
コンテンツ
カウンセラーもPTSDになる?
インターンシップをやっていた時の私の体験を話しますね。うつっぽくなって、離人感のような症状が出たのです。
カナダのバンクーバーで、性被害を受けた方の支援センターでインターンをやっていた時のことです。
とにかく、被害の体験を真剣に誠心誠意、傾聴をさせて頂いてたのです。その時は、それが大事だと思って頑張っていたのです。
でもクライアントさんは全然よくなっていかないし、無力感でいっぱいでした。大学院のスーパーバイザーは怒るばっかりで、全然ためにならないし(笑)
そんな時、精神的にとても追い詰められて、鬱っぽくなり、離人感のような症状が数ヶ月はあったように記憶しています。
もちろん、当時は「二次受傷の影響でこうなっている」なんて意識は全くありません。「無理しているのかな〜。カウンセリングの仕事ってこんなに辛いのか?」みたいに漠然と思っていました。
そんなことがしばらく続き、もがきながら、傾聴だけでない介入方法がわかってきたこと、セルフケアを頑張ってやったことで、精神的に少しずつではあったのですが、ましになっていきました。
あと、インターンシップということで、週に5セッションくらいしかやってなかったのも、不幸中の幸いだったのです。これを毎日5セッションやっていたら、、、バーンアウトして心理士辞めていたと思います。
今思い返すと、被害体験を何度も聞いたということも影響したと思いますが、自分が支援者として役に立ってないという事実も加わって、辛くなっていたのだと感じます。
それからも、長年の臨床、、、色々ありましたよ(笑)
概念を明確にしましょう
3つの言い方をおさらいしましょう。二次受傷、外傷性逆転移、二次的外傷性ストレスなど、色々な言われ方をしているので明確にする意味でもお伝えしますね。
私なりの解釈が入りますので、ご了承ください。
1 二次受傷 Secondary trauma
二次受傷とは、クライアントさんのトラウマ的な体験や症状が一次だとすると、その体験を聞くことで二次的に影響を受けるという意味です。
代理受傷(Vicarious Traumatization)とも言います。
Vicariousって代理というような意味があるのですが、ちょっと変ですよね。
クライアントの「身代わり」になってというのは。これは、おかしいと指摘されていた専門家もおられました。
だから、「二次的な」という方が伝わりやすいかもです。
とにかく、クライアントさんの虐待などの被害体験を聞くことで、二次的にトラウマを受けるし、影響されるということです。
時には、世界観さえ変わってしまうこともあるのです。
虐待、加害、苦痛、裏切り、傷つき、、、そんな世界にいつも触れていると、そのようなことに意識がいきやすくもなります。
2 外傷性逆転移 Traumatic Counter-transference
分析的なアプローチの観点からみると、二次受傷は「逆転移」ということなのです。
知らない人のために書くと、クライアントがセラピストに投影するものが転移。簡単に言うと、感情を抱くということです。
セラピストがクライアントに投影するのが逆転移ということです。
トラウマ的なことが逆転移に影響を及ぼすというようなことで「外傷性逆転移」なのです。
3 二次的外傷性ストレス Secondary Traumatic Stress
PTSD的な症状が支援者にも出る、という意味でこの概念が出てきたのでしょう。
ミラーニューロン的なこともありますし、虐待の被害体験を毎日数時間、何年も聞いたら、、、
PTSD的な症状が出ても自然だと思いませんか?
今まさにクライアントさんが目の前にいて(スカイプやZoom越しでも)過覚醒、解離、シャットダウン状態になっている。
そのようなクライアントさんの状態に支援者は影響を受けてしまうこともあります。
毎日何時間も過覚醒状態のクライアントさんといると、支援者も過覚醒になっても自然です。
だからこそ、支援者が自分の神経系、覚醒レベルを自己調整する習慣が求められます。
共感疲労 compassion fatigue
もっと広い意味では、共感疲労と言ったりします。
トラウマからくる様々な感情、今抱えている生きづらい気持ちに寄り添うのが支援者。
絶望、悲嘆、怒り、悲しみ、など、それらと共にいる時間が長ければ長いほど影響されても自然です。
カウンセリングという支援で一生懸命話を聞きすぎるのです。
自分のことのように、共感しすぎる必要はないのです。
無関心過ぎず、共感し過ぎず、ではないでしょうか。時には共感の度合いを必要に応じて強くしたり、弱めれたりすることが望ましいのです。
燃え尽き症候群 Burn out
結果こうなるという意味でバーンアウトという言葉がある。
日本でも心理カウンセラーが結構バーンアウトしていることもありますよね。
海外なんかでもひと昔前は、被害体験を聞く、ということばっかりやっていたので、バーンアウトしていた心理士は多かったのです。
ストレス度が高い職業、ブラック企業で働く人、疲れ切った状態という意味でバーンアウトという表現が一般的になってきてますよね。
二次受傷になっているサイン
身体のサイン、感情や心理のサイン、思考や行動のサイン、という3つを、さらっとリストしますね。
海外の論文やサイトを私なりにまとめたものになります。
傾聴中心のセッションをやっている人で、相談者さんの被害体験を聞いている人は、特に注意が必要です。
1 身体のサイン
体の痛み、極度の疲労、不眠、体調を崩しがち、皮膚の荒れ、心拍の異常、頭痛、、、
体調の変化を意識しましょう。毎日の現場のセッションがなんか辛いなど、そのようなことがあったら意識しましょう。
体は正直なのです。色々なサインをくれるので、しっかり受け取ることがポイントになります。
2 感情や心理のサイン
うつ、離人感、無気力、強い不安、罪悪感、怒り、日常が楽しくない、ネガティブなセルフイメージ、、、
クライアントが抱えているようなトラウマからくる様々な感情と同じようなことを感じるようになったら注意が必要です。
大事なポイントは「いつもより」ということではないでしょうか。いつもよりイライラしがちだとか。
誰でも色々な感情を感じますよね。ただ、通常の自分と比べて、1年前の自分と比べて、これらの感情があるかどうか、と意識してみましょう。
意外にも影響受けてるかもですよ。
3 思考や行動のサイン
人を避けている、依存が増えている、外に出歩かない、家庭がうまくいっていない、決断をしにくい、仕事を辞めたいと思う、人の悪口を言っている、、、
さっきと同じで「いつも以上に」これらの傾向性が増えているか、という視点で観察しましょう。
いつも以上にお酒の量が、、、いつも以上にネットフリックスを、、、(笑)
二次受傷でどうなるのか?
二次受傷して、上記のような症状がたくさん出ていて、バーンアウトしつつある心理カウンセラーはクライアントにどのようなことをしてしまうのか?
「怒りをクライアントにぶつける」なんてこともよくあるでしょう。
「異常なほどの救済者になってなんでもやってしまう」一見、一生懸命になっているようで、クライアントのためにならないです。
「バウンダリーを超える」気がついたら、どんどん侵入しているなんてのもよく聞きます。
これらの例は、二次受傷によってなりやすい傾向なのです。
ただ、付け加えたいのは、二次受傷ではなく、支援者の元々抱えている辛かった生育歴やトラウマ、その他の要因によっても、なりやすいのです。
カウンセラーだけがなるわけではない
様々な対人の支援者も辛い体験を聞くことがありますよね。目撃することもありますよね。
医者、看護師、精神科医、警察、相談員、福祉職員、教員などなど。
対人支援者でなくても、例えば、新聞記者で虐待のことばかりを取材しているとなんらかの症状が出ても不思議ではありません。
だって記者さんは、被害体験を何度も何度も聞くわけですから。
虐待のことだけでなく、劣悪な事件のこと、人の悲しみ、、、沢山のストーリーを取材される。
私も過去に取材してくださった人に、二次受傷の事実をお伝えした時もありました。
でも、全ての記者さんに話せばよかったと、とても後悔しています。
一般の人でも、ニュースを真剣に毎日毎日視聴し続けると影響もあるでしょう。
さらに、優しい人は特に、人の苦労話を何度も何度も、長い時間聞いてあげるという場合も何らかの影響を受けることもあるでしょう。
ただやはり、特にカウンセラーは被害の体験を傾聴する機会が相対的に多いので、しっかり意識することが大事なのです。
支援者が二次受傷でバーンアウトしないための予防方法とは
1 スーパービジョンを受ける
支援者が、「正式」なスーパービジョンを受けることは当たり前のことです。
一人でやるのは、とても危険です。そう海外でいつも言われてきました。
「正式」なスーパービジョンと書いたのは、二次受傷の知識がある人で、トラウマ臨床をやってきた人を選んでくださいね。
ただ傾聴だけして、ちょっとアドバイスするだけのスーパーバイザーだと、ちょっともったいないです。
まあでも、仕事場の同僚や心理士系のコミュニティーのメンバーに、世間話的に話すことでも多少は二次受傷を防ぐことに繋がると思います。
とにかく一人で抱えなくていいのです。人に相談することが、支援者もクライアントも守ことになるのです。
2 ソマティックなセラピーをマスターする
トラウマを解放する効果的なスキルをマスターしましょう。
そうすることで間接的に二次受傷になりにくくなると思っています。
「被害体験をただ聞き続けること」それと「役に立っていないという無力感」がセットになって二次受傷になることが多いと推測しています。
そのような意味でも、役に立つ支援者にスキルアップすることは必須です。
ただケースをどんどん増やすのは危険です。スキルをアップさせていきながら、自然と臨床の数を増やしていきましょう。
3 知識を得る
二次受傷という現象、事実を知識的に知りましょう。
まず、このような記事を今読まれていること自体、知識を得れますよね。
それが予防につながります。
4 セルフケアを怠らない
とにかく、トラウマ臨床、虐待の臨床をする人は特に、自分を大事にしましょう。
自分をケアしましょう。それも仕事のうちです。どんなストレスがかかる仕事では、セルフケア必要です。
みんなそれぞれの方法でケアしてたりもしますよね。
それを我慢せずに、どんどんやっていい! そう伝えたいのです。
5 自分のトラウマを解消する
支援者であるあなたのトラウマを、ある程度解消しましょう。
様々な研究データがあって、まだ完全に結論付けられていませんが、支援者がトラウマを抱えていると、二次受傷になりやすい、という研究結果もいつくかあるのです。
仮にそれが、関係なかったとしても、支援者自身のトラウマを解消し続けることは、他のことにもいい影響が出るので、やりましょう。
心理カウンセラーを辞めたい、、、とならないために
長年の現場の経験を積んできて、お伝えしたいことは、、、
トラウマの臨床をすることで、思った以上に影響を受けてると思ってください。そう注意してほしいのです。
言葉はきついですが、甘くみないでほしいのです。
今回の記事のポイント
様々な概念があることを意識する。
二次受傷 代理受傷 外傷性逆転移 二次的外傷性ストレス 共感疲労 燃え尽き症候群
身体、感情、心理、思考、行動のサインを意識する。
神経系を調整する力を身につける。
被害体験をただ聞くことをやめる。
効果的なアプローチを学び続ける。
スーパーバイザーをつける。
セルフケアを思う存分やる。
マジ尊敬!
トラウマ臨床という、ある意味難しくもあり、人のお役に立てる素晴らしい仕事です。
それをされていることを本当に尊敬いたします。
あなたが価値ある存在だからこそ、たくさん労ってあげてくださいね。
今回の記事は、トラウマセラピーの「大変さ」にフォーカスしました。
そのような部分もしっかり意識することで、トラウマセラピーの希望、感動、勇気などの「素晴らしさ」も見えてくるのではないでしょうか。