ある大学の研究者とのインタビュー(パート3)
今回の内容は、性暴力の被害者へのサポートについて。心理カウンセリング的な支援について。LGBTについて。被害者を責める人の心理について。お伝えしていきますね。
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過去の性被害が今の生きづらさに大きく影響
聞き手: パートナーでつき合ってる人同士の中でも、性暴力とかって起こるじゃないですか。それもしんどい体験だと思いますし、幼少期の頃にとか、受ける性暴力と、またちょっとその人の受け止め方とか質とかって変わってくるかなと思うんですよね。
自分のアイデンティティであるとか、生き方に迷うであろう、対人関係をどう築けばいいかっていうところに迷うであろうぐらいの、大きな傷つきを抱えてる方とかが多いのかなと、今聞いてて思いました。
山口: 自分自身の中でもしんどいし、対人関係にも影響するし。だから、意外にカウンセリングに来る人って、ああ、被害にあったからこういう息苦しさがあって、こういう人間関係になって、というように意識できている人は結構多い。
でも、それは氷山の一角で、大体の人は無意識に、トラウマ的な記憶を何となく頭の片隅のほうにやったりもします。
でも、もっと深く見ていけば、あ、なぜここでこういう人生の選択をしたのか、なぜこのパートナーを選んだのかとか、なぜこの仕事を選んだのかとか、毎日の細かい選択とかも。
いや、ここと性被害の部分とか、性的に傷つけられた部分とか、ゆがんだものを押しつけられたってことと、実はすごい関係してたりするのかなっていう印象ですよね。
でも、そこを認識してない場合は、何か仕事依存とか、忙しくして感じなくしているのです。もやもやしてるものがあるんだけど、それを感じなくして、仕事に没頭する。プライベートな時間も、いろいろスケジュールを入れて忙しくしてれば、感じないようにしたり。
でも、実はそういうところからの影響ってかなり大きいと思っています。性暴力もそうですけども、一般にどういう親子関係であったかとか、親の影響って、ものすごい大きく出るじゃないですか。
もちろん、そこからいろいろ成長したり、解放したり、より自由になったりしてはいけるんですけど。やっぱりそこの影響って大きいなと思うわけですよね。年齢が小さければ小さいほど、傷つきがショックであればあるほど、影響が大きいと思います。
男性の性暴力被害の方に必要なこと
聞き手: カウンセリングにつながれて、また別の人生を歩み始めることができることもあると思います。カウンセリングまで来なかったとしても、こういうふうな社会が成り立っていけば、被害にあった人たちも生きやすいんじゃないかって思うような構想とかってあります?
山口: たとえば、今回も法改正があったみたいに、法律の面から変えていく。メディアの面でもっと啓発してもらう。
さらには、今回のインタビューや研究を学問の分野というか、アカデミックな分野からも働きかける。支援団体の分野からも、色々な分野から啓発する。
男性も性被害にあうんだよ、という啓発。そして、より相談しやすい環境を整える、ところが大事。だから、男性サバイバーさんが努力するところじゃないと思うんですよね、そこは。
もちろん最後は、そういう支援にかかわるか、かかわらないか、やっぱりちょっと勇気を出すっていうのは個人にかかってくるんですけど。その人たちが勇気を出せばつながる、サポートできるようなコミュニティ作りとか社会のかかわり方って、大事だと思うんですよね。
なぜかっていうと、いろんな病気とかメンタルヘルスとかありますけど、それはみんな好きで病気になってるわけじゃないっていうか。たとえば、めちゃくちゃ食べすぎて糖尿になりましたみたいな。
で、ものすごい、その方にはケアがある。もちろん、食べすぎてしまう背景には、またトラウマとかいろいろあるから、本人の選択じゃないっちゃ選択じゃないんですけど。
女性サバイバーにしろ男性サバイバーにしろ、本人は何にも悪いことしてないわけですよね。
もう言ってみれば、犯罪に巻き込まれた被害者なわけですよね。ずっと苦しんで生きてきて、その方たちへの支援が本当にこんなものでいいのでしょうか?
犯罪の被害にあってて、それをもっと国が補償する必要があるし。カウンセリングも、払えない人には無料で受けれるみたいな支援体制が必要なのかなっていうところですよね。
別に美容整形のことを全部悪く言うつもりはないんですけど、それはもちろん、何か事故にあって、顔がぐちゃってなってしまったとか、そういうのは別として。
そういう美の追求という分野には、ものすごい資金があるわけじゃないですか。資金というか、莫大なお金が動いてたりするわけじゃないですか。
あげればキリがないですが、莫大なお金が動いている分野はたくさんありますよね。理想だと言われるかもしれませんが、本当に必要な所に、お金をはじめとして、もっとサポートがあってほしいです。
たとえば、生まれながらに、がんの子どもとか、何の罪もないじゃないですか。
生まれながらにがんだよとか、何も悪いことしてないのに性被害にあったとか、そんな人々をもっと守ってほしいなっていうのがありますかね、正直なとこ。
被害者が悪いと責める人の心理的背景
聞き手: 今のさっきのがんの例えを聞いて思ったんですけど、性暴力って、結局1人で成り立ってるわけじゃない。
加害者との関係性が、それがいい関係か、もう全然疎遠の関係かは別として、相手がいるっていうことで、結局あなたもそこに加わったでしょ?っていう、コミットしたでしょ?っていうように取られてるんじゃないでしょうか。
全面的に加害者が悪いって言えますかみたいな、自動車事故のときの、自分が全然悪くないのに「9・1」ですよねみたいな、1は絶対かぶせられるみたいなね。何かそんな感覚なんかなって、今聞いてて思いましたね。
山口: そうですね。よくある例が、たとえば女性が夜道で短いスカートをはいて歩いていたみたいな。そんなとこを歩いてたあなたもあなたでしょ?的なことを言う人がいる。でもそれは、その人の自由じゃないですか。
いや、別にそれをすすめてるわけじゃないですけど、その人の自由。どんだけ夜中歩こうが、別に短いスカートはきたければ、いいじゃないですか。加害をする人が100%悪いのです。
極端な例ですが、たとえば私が、いつもかばんに、たとえばですけど、現金500万持って買い物に行く。まあ行かないですけどね(笑)
聞き手: ははは(笑)
加害者が100%悪い
山口: 全部盗まれた時、「いやいや、あなた500万も現金で持ってるから悪いんでしょ?」じゃなくて、盗む側が100%悪いわけですよね。
だって私の自由じゃないですか。現金で500万持って、かばんに入れて、かばん「ぱかっ〜」て開きながら、フラフラ歩いててもいいわけじゃないですか(笑)
そこを責めたくなる人の心理はこうだと思うんです。500万盗まれた時に、通常の心を持った人なら気の毒だなと思うと思うんです。
そして、それを何とかしてあげたい。でも、何とかできない。そこに不快感がある。
その不快感を軽減させるために「あなたが500万も現金で持ってたからでしょ?」と責めれば、ちょっとすっきりするんだと思います。
聞き手: そのような心理が背景にありそうですね。
山口: だから、性被害に関しても、そういうことが起こるんやろうなって思う。経験したことなかったら、やっぱりわからないと思います。わからないから、不快だから、そこにいる被害者に言いやすいっていうか。
だから、みんな本当に心の底から、被害にあったのは「あなたのせい」とか思ってないと思うんですよね。でも、どうしようもない、できない無力感みたいなものがそうさせていると思います。
性被害を受けた人への心理カウンセリング的な支援
聞き手: 確かに。被害者への支援に関して教えてもらってもいいでしょうか?
山口: 基本こういうトラウマとかPTSDって、あんまり傾聴しすぎるとよくないんですよね。
ばんばん話を聞き出して、ああ、そういうことあったんですね、つらかったんですねって言って、話させすぎると、もうせっかくせき止めてるダムを一気にばーんって開放して、下流が水浸しみたいなことになるんですよね。
だから一気に話させすぎるっていうのは、余計にもっと死にたいと思うし、フラッシュバックにももっとなるし、悪夢ももっと見るし、人がもっと怖くなるしみたいなことが多いわけですよね。
だから、性被害ってこうだよ、男性被害ってこうだよっていうのも、もちろん大事ですし、支援についても、そうじゃないんだよっていうのも同時に広まっていってほしいと思っています。
日本ではまだまだ傾聴中心のカウンセリングが多いので。
欧米とかがもう30年とかやってきたわけですよね。被害体験を吐き出して、カウンセラーもその話をどんどん聞いて、相談する人は一生懸命話して、苦しくなって、でも全然よくならない。
いろんなことは受け止めてもらった感はあるし、自分の過去と、こういうとこがあって今こうなってんのかっていう頭での理解にはなるけど。全然、息苦しさ、人は怖い、いろんな依存、全然よくならないわけですよね。
トラウマはソマティックなアプローチが必須
聞き手: どんなアプローチが効果的なのですか?
山口: トラウマっていうと体がぎゅって固まったりすることでね。だから、簡単に言えばぐっと体が固まることなので、性被害とか、そのぐっと固まった部分なんとかすればいい。
簡単に言えばですけど、ざっくり言えば、そこの固まった反応を、ぐっとならないように解除すれば、だいぶ楽になるってことですよね。
それには、たとえば自分自身を観察するとか、自分の体の感覚を取り戻していくとか。
たとえば座ってても丹田を意識するとか、地に足を着けるグランディングを意識するとか、呼吸に意識向けてみるとか、そういうのが本来の支援っていうとこですよね。
聞き手: 体の力の抜き方を教えるみたいな?
山口: そうですね。それも一つですよね。リラックスの方法とかもそうだし。だからそこを、つらいことばっかりを話して、何か話し終わったらすっきりしました。
カウンセラーさんの前で泣いて… そして新しい人生が開けていくみたいなのは、あれは映画の世界だけですよね(笑)
だからといって、じゃあ一切あなたの話は聞きませんみたいなことでもないんです。言ってもらう量とか、タイミングとかっていうのを、ちゃんと見計らっていくのが大事なのかなっていうとこですね。
カウンセリング的な支援のことでお伝えしたいことは、まずは一般的なカウンセリングが出来て、その次に、トラウマセラピーが出来て。
その次に、虐待の対応が出来て。その次に、性的な虐待のセラピーが出来て、そして、最後に男性の性被害のセラピーが出来る。というピラミッドを想像して頂ければわかりやすいと思います。
よく男性の性被害のコツを2時間で教えてほしい、2時間で講演してほしいと言われるのですが、まずはトラウマとか、ソマティックとか知っていないと、伝えられないというのがあります。
LGBTと性被害について
聞き手: LGBTと性被害について何かありますか?
山口: 男性の性被害の特徴で「性的な混乱」ということをお伝えしました。その混乱とLGBTが関係してるっていう視点も持ってていいのかなっていうとこですよね。
要するに、性被害にあう、性的な混乱が起こる、それでLGBTの傾向になる人もいるということです。あなたが男性で、女性が好きだけど、性的には男性に惹きつけられるとか。
その逆とか。女性でも、男性が怖いから、女性に魅力を感じるとか。
LGBTに傾向になるのは、様々な要因があると思います。その中に、性被害とか、性的な混乱というものがあるのを知っていてほしいということです。
性、セクシュアリティーとは、柔軟で美しもの
男性も、女性も、どこまでいっても人なので、性っていうのは、もっと柔軟でいいのかと思います。
お世話になったカナダの支援センターの代表のドンさんは、そういうセクシャリティっていうか性っていうものは、もっと美しいもので、柔軟であっていいんだよと教えて頂きました。
たとえば、女性が好きでも、途中から男性好きになってもいいわけですよね。だから、それぐらいな柔軟さというか。
だから最近、若い世代の人たちは、意外にそういうLGBTの方とかもメディアとかにも出るから、そんなに、え? みたいな、一昔前の年代の方よりも、もっと柔軟ですよね。
それは、そういう社会作りをメディアとかもやってるからなんだろうなっていう気がするんですよね。
一昔前は、たとえば男性が同性愛です、とか、男性が好きですみたいなこと言ったら、文化によっては犯罪だとか、もう何かつるし上げにあうみたいな、日本も昔はそんなん言ったら、ものすごい批判を受けたわけですよね。
そういう人がテレビに出るだけで干されるじゃないけど。でも今って、そういう時代でもなくなってきてるっていうのは、メディアに出てくれたパイオニアのLGBTの方々、すごいなと思いますね。
自分は非難されるけど、その人たちのおかげで、ほかの方たちが暮らしやすい。
同じように、有名人で性被害にあったと公言してくださる方々が出れば出るほど、より相談しやすい社会になるのではないでしょうか。
聞き手: ありがとうございました。
山口: こちらこそ、 ありがとうございました。