ある大学の研究者とのインタビュー(パート2)
今回の内容は、男性と女性の被害の違いであったり、男性サバイバーの特徴であったり、性的虐待がどういうものなのかの理解が深まるかもしれません。
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過去に性被害を受けた男性が相談しにくい理由
聞き手; 男性の場合、相談に迷いがあるときというのは、その背景にどんな思いがあるのでしょうか?
山口; 社会の風潮として、少しずつ男性も、少年も性被害にあうっていうのが、ちょっとずつは浸透はしてきているとはいえ、まだまだの部分がありますよね。
支援者の間でも、じゃあ相談されたらどうすればいいの?とか、苦手意識があったり。
もう一つは、性被害のことを、男性も女性も、相談する時に、ちゃんと受け止めてくれるのだろうか? というような心配もあります。
なぜかと言うと、これだけ自分にとって大きいこと、時に恥なことを、絶対この人は大丈夫だ、という確信がないと、なかなか相談できないことも自然だと思います。
そこで、ここ相談して大丈夫なのかな? みたいな感じで、軽く相談できないっていうか。ここやったら大丈夫やろうぐらいな、ある程度の自信がないと、相談できないことだと思うんですよね。
だから、受け入れられなかったときの恐怖って、ものすごいあるんだろうなと思います。
自分の人生の中で、一番の汚点みたいなこと、もしくは人生で一番恥ずかしくて誰にも言えなかったこと、人に言おうとしてみてください。そんな大事なことを簡単に相談出来ないですよね。
電話だったらまだハードルは低めかもしれませんが、対面だったらもっとやりにくい。
だからこそ支援を受ける側が、どうすれば少しでも相談しやすい環境を考えたり、そういう社会的な風潮を作っていくとか、そういうことがとても大事です。
相談しやすい社会の風潮を作るには何が必要?
聞き手; どうすれば、もっと相談しやすい社会の風潮を作っていけると思いますか?
山口; 海外なんかでは、男性の有名人とか、俳優とか、スポーツ選手とかが、過去に被害にあったとメディアで公言するんです。
たとえばこどもの頃、部活のコーチに性的な虐待をされた、性暴力を受けた、というように。全国放送のテレビ番組で言ってくれる人がいるわけです。
そうすると、あ、こんなスポーツ選手で、こんな力強い人でも性被害って避けれなかったんだとか、その人が言ってくれるんだったら、みたいな感じになるわけですよね。
たとえば日本でも、そういう有名な方とかが、テレビとかでそういうふう出てくれると、もっと社会的な風潮は変わってくるかなっていう感じはしますよね。
影響力をものすごい持ってはるわけですよね、有名人の方は。
もちろんニュースで取り上げてもらうことも大事です。でも、多くの人の目には、あまり留まらないじゃないですか。ああ、何かそういうこともあんのかなみたいな。
でも、実在する有名人の方が、そういう被害にあったって言ってくれると、ものすごいリアルな感じがする。ああ、そういうことあるんだなって、受け入れやすくなるっていうのかな。
だから、カナダやアメリカでは、20年前よりは、もっと相談しやすい環境になってきたと思います。
男性サバイバーの支援でやりにくいことは?
聞き手; 山口さんは今、日本で活動、男性の支援をしているにあたって、活動しにくいと感じることとか、もしくは追い風が吹いてきてるなと感じる社会的な流れなどあったりしますか?
山口: 各メディアとか、たとえば新聞とかニュースとかでも、実は女性だけじゃなくて男性も性被害にあうんだみたいな流れは少しずつありますよね。
たとえば、女性の被害者のための♯ Me Too運動みたいなのが海外であって、日本でもちょっと流れがあって。
実は女性だけではないんです、ということで、記事を書いていただけませんか? というよいうなことはあります。
そういう依頼など今年で二つ。ニュースとかも入れたら三つ、四つみたいな感じがあるので、少しずつですけど動き出している印象はあります。
あとは、法改正が行われて、男性もっていうところですよね。だから、少しずつは変わってきてる。まあでも、ゆっくりだな、という感じです。
聞き手: ゆっくりなんですね(笑)
山口: もともと、カウンセリングを受けるっていうこと自体も、まだまだタブー視されてるみたいなところもありますよね。
最近ではうつ、仕事場でうつになったら、大変だったんだな、ちゃんと専門的な支援、治療を受けなさいよみたいにはなってきてますけど。
日本なんか一昔前にうつって言ったら、「何を甘えたこと言ってるんだ!」みたいな世界じゃないですか。だから、少しずつ変わりつつある。
男性女性である前に人なのです
聞き手: 男性の性暴力被害の方って、女性の被害と、どういうところが一緒で、どういうところが違うとか、普段かかわっておられる中で感じることはありますか?
山口: 基本は人なので、男性、女性っていうのもあるけど、たとえば、いろんなアメリカ人とか日本人とかもあるけど、でも基本は人なので、ほとんど一緒って思ってもらってもいいかなと思うわけです。
だから被害にあうと、たとえば強烈なフラッシュバックが出てきたりとか、うつっぽい感情、怒り、悲しみ、同じ反応が出る。
何か死にたいと思う感じも出てくることもあるし、基本一緒。要するに、恐怖を感じることとか、嫌な感じを感じることもそうだし。
あと、性的虐待は、性的な興奮、性的な快感、痛みと嫌な感じと不快感とともに、性的な興奮っていうのも同時に感じてしまう。
感じるのは自然な体の反応。熱いものをさわったら熱ってなるように、同じですよね。
だから、そういう基本同じところがほとんどです。人って、男性はこうよね、女性はこうよねと、LGBTの方はこうよねってカテゴリ分けしたくなる傾向がある。
要するに、カテゴリ分けするほうがすっきりするわけですね。日本人は内向的でアメリカ人は外交的で明るいみたいな。
聞き手: 確かに(笑)
山口: でも、アメリカ人でもすっごいシャイな人もいるし、日本人でもすごい明るい人もいるし。だから、カテゴリ分けしてしまうんだけど、「基本は人」という部分で一緒の部分もあるし、違う部分もある。
女性と男性の性暴力被害の違い
聞き手: 男性も女性である前に、人なんですね。
山口: そうですね。違いの部分は何点かあります。男性サバイバーは、女性サバイバーよりも被害を被害と認めにくいっていうところがあるわけですね。
だから、たとえば12歳ぐらいの、まあ12歳、14歳ぐらいの少年が、加害者が25、20代後半の女性の場合もあります。
そんなに殴られたり、めちゃくちゃに苦痛を伴うものでなかったとしたら、心地もよかったし、あれ?
ちょっとそういう大人の女性に教え込まれてラッキーだったのかなみたいな、そういう大人の経験したんかなみたいな感じになる。でも、何かちょっと違和感がある。
で、だんだん、16歳、7歳とかなってきて、何か女性に対して、やたらイライラするとか、怒りがウワーっと出てくる。
で、20歳ぐらいになってようやく、ああ、あれって性暴力だったのね、自分は利用されたんだ、搾取されたんだってわかってくる。
怒りとか悲しみとかフラッシュバックみたいなものがウワって出てくる。被害を被害となかなか認識しにくいところが、一つ特徴としてある。たとえば友人に、ちらっと言うわけですよね、実はこんなことがあったって。
年上のお姉さんにこんなことされて「おー、ラッキーだったな」というように言われらり。ああ、そんなもんなんかな、というように済んでしまうこともあるってことです。
男性の性被害の特徴 性的な混乱
聞き手: 他に違いはありますか?
山口: もう一つは、男性被害者の特徴という意味で、性的な混乱みたいなのが起こるっていうことですね。たとえば、まず10歳ぐらいの少年が40代ぐらいのおじさんに、そういう性的な虐待をされる。
10歳ぐらいだったら、あれ? 女の子が好きなのにな、みたいな感じもありながら。そういう経験をさせられてしまうと、あれ?自分は男性に好かれてんのかなとか。
で、性的な興奮があることが多いので、また、そういう人にちょっとひきつけられたりする。またその人に会いに行ってしまったり、それも全然自然なことなんですけど、会いに行ってしまって、あ、自分は男性が好きなのかなとか。
でも、頭では女性とつき合うもんだなって何となく思ってるし、どういうことなんだろう? でも、体は男性を求めるし、というように混乱することも多い。
で、加害者からもそういうメッセージを植えつけられたりします。「君は男性との相性が合う」「興奮して感じてるよね」というように言われる。それで、そうなのかもと思い始める。3割から半分とかはそんな印象です。
男性の加害者から性的虐待をされる
聞き手: それは、だからとりわけ男性の加害者から加害された場合にっていうことですよね。
山口:そうですね。性的な混乱が起きやすいのは、男性が加害者の場合が多そうです。
もともと少年が、ちょっと中性的な男の子っていうか女性的な男の子で、加害者に女の子みたいに扱われるとか、加害者が女性であれ、男性であれ、女の子みたいに扱われる、という一面もあります。
ちょっと話が変わりますが、本来は、性というものは自然なかたちで探求していくものです。発達の段階で。自然なものとして、美しいものとして。好奇心を持って探求していくものです。
性被害というのは、その大事な部分を「ゆがめられちゃう」ということなのだと思っています。
男の子も女の子もそうですけど、ゆがんだものを押しつけられることによって、性って何? 人を好きになるって何? というような生き辛さや混乱が起こりやすい、というところがあります。
歪んだものを押し付けるという性的虐待
聞き手: その「ゆがみ」というのは、たとえば年齢的な、時期的な、自然な発達の過程からゆがんだというのと、あと行為的な、行為そのもののゆがみとか、そういうものからという意味ですか?
山口: そうですね、全部を含めてですよね。だって年齢的に、3歳の子も被害にあうし、6歳の子も10歳の子も。
性というのがよくわからない年齢の時にですよね。男の子、女の子くらいの差はわかるけど、そういう「性って何ですか?」というところに、ゆがんだものを押しつけられる。
それはまるで6歳の時にお酒を無理やり飲まされるみたいな。ジュースじゃなくお酒を飲まされるってなると、ちょっとおかしなことになるじゃないですか。
10歳なのに、たばこを吸わされるとか。もっと言えば、ドラッグを打たれるみたいなことなのです。強烈にひきつけられることがあるわけです。
だから、よく性被害にあうっていうのは、時に性的な興奮っていうのは、そういうドラッグを打たれるようなこと。
そんな大人でもドラッグを打たれたらちょっとおかしくなるのに、子どもながらにそういうものを打たれたら、いろいろ混乱も起きるし、よくわからなくなるし、自分って何とか、人と違うんじゃないかとか、孤立したり、いろいろあるわけですよね。
性的なことに嫌悪感
性に惹きつけられるに対して、逆の場合もあります。
たとえば性被害でも、すごい痛みを伴うような暴力的なものであったりすると、性というもの自体すべてに嫌悪感。もう怖いし、一切かかわりたくない、というようになる場合もあります。
本来であれば、恋人ができたり、自然なかたちで、そういう性的な探求をしていくもの。
でも、そういう道じゃなく、性って汚いものだとか、そういうのにかかわっていけない、というように、ゆがめられてしまう。
すごい息苦しかったりするんじゃないかなと思うわけです。そのことで、恋愛、結婚、人間関係、仕事、大事な人生の選択に大きく影響する。
だから、こんなことはあってはならない犯罪なのです。「それはそうでしょ、性暴力って犯罪ですよね」って当たり前に思うかもしれない。
でも、改めて、性暴力は犯罪行為であり、もう極悪な犯罪行為なんだとお伝えしたいのです。
回復、支援、カウンセリングなどについてお伝えします。