グルーミングの9ステップ|ジャニー喜多川の性加害

 

こどもへの性虐待は巧妙な計画的犯罪です。そのプロセスをグルーミングと呼びます。ジャニー喜多川はグルーミングを最大限に活用していたのです。

グルーミングは性虐待以外にも、様々な状況で使われます。ブラック企業で社員を働かせ続ける、部活の先生が生徒を支配する、親子、恋愛や夫婦関係の支配目的でも使われます。

この記事では、性的虐待におけるグルーミングの9つのステップを解説していきます。グルーミングの理解なくして、ジャニー喜多川がどれだけ深く被害者を傷つけたか理解できません。また、グルーミングの理解はこどもを性犯罪から守ることにもつながります。

 

 

岡本カウアンさんが言ってました。「洗脳とかグルーミングだと思いたくない部分もある。だってそう思った時点で全てがトラウマになる」全てが操作だったんだ。裏切られたんだ。そう思うと辛くて仕方がない、ということです。

それくらいグルーミングや性被害のことを認めることは難しいのです。だからこそ、被害者も、対人支援者も、周りの人も、まずはグルーミングについて理解することが大事なのです。

オフィスPomu (www.pomupomu.info) と表記下されば、この「9ステップグルーミング」をご自由にお使いください。この記事もご自由にシェアくださっても大丈夫です。この記事が、こどもへの性被害の予防、支援に少しでも参考になれば幸いです。

 

 

グルーミング: 関係を作る

 

性虐待をやり続けて支配するには、まずはこどもと関係を作る必要があります。この偽の信頼関係という土台がない限り、支配し続けれないのです。

 

① 選ぶ

虐待しやすい子を選びます。一般的には、おとなしそうで、愛に飢えていて、加害者の好みの子を選びます。反抗してきそうな子は選びません。加害者はグルーミングしやすい子を選ぶのです。

ジャニー喜多川は、何もしなくてもこどもが集まってくるジャニーズ帝国というシステムを作りました。意識的に、また無意識的にも作りあげたのでしょう。ジャニーズJrの中から、「やりやすそうな子」「やりにくそうな子」を分けていきます。

束になった履歴書が自宅マンションに置いてある動画がありました。履歴書は会社に置かず、社長本人が管理して好みの子を選ぶのが最初の段階。

次に「屋上にプールのある場所」で遊ぶこどもの様子を「双眼鏡」で観察するわけです。暴れる子、調子に乗る子、うるさい子は退場させるのでしょう。このようにふるいにかけて残った子を「合宿所」に呼びます。

 

② ニーズを満たす

ターゲットにするこどもを選んだ後は、まずその子が「どんなことが好きなのか?」「どんな悩みがあるのか?」「何を求めているのか?」などを探ります。

そして支配するために、その子のニーズを満たしていきます。こどもが求めているものを満たしたり、悩んでいることを解決してあげたりするのです。お金が欲しい子にはあげる。愛が欲しい子には関心を向けてあげるのです。

通常こどもを知って、ニーズを満たしていくプロセスには時間がかかります。しかし、ジャニー喜多川は、このプロセスを簡単にやっています。まず食事、娯楽、住む場所、お金を与えます。

そしてジャニーズに入ってくる子たちは、デビューして成功する夢があります。「マンションに呼んでもらえた」「いつかデビューさせてもらえる」という期待で満たすのです。夢に近づいているのだと。これでいいのだと。

 

③ 孤立させる 

性加害を継続して行うには、こどもを親から孤立させる必要があります。学校の部活、サマーキャンプ、寮、これらの場所でも性虐待が多いのは、こどもが親から離れているからです。親や周りの目からの監視がなくなるのです。

こどもを孤立させるのは、加害者がこどもにとって大事な存在になる必要があるからです。学校の教師、部活の先生、親、どの大人もこどもには大事な存在です。その大事な存在が自分に関心を向けて問題を解決してくれるのです。そうすると、よりさらに大事な存在になります。

この点においてもジャニー喜多川は合宿所という、こどもを親から「孤立させる」場所を作ったのです。地方から出てきているJrたちは、家に帰りたいと思っても簡単には帰れません。

こども達はジャニーズという世間から「孤立」した世界で、メディア界に絶対的な権力を持ったジャニー喜多川を崇めるのです。BBCのドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」で一般の人のコメントで「He is God」というのもありましたね。

 


 

ここで大事なポイントは、関係を作るというグルーミングのプロセス「選ぶ」「ニーズを満たす」「孤立させる」を解説しましたが、この時点では性的な行為、性加害は一切行われていないということです。

こどもがこの時点で、グルーミングされ始めている、何かおかしい、なんて全く思わないのです。こどもや親も、親身になってくれる先生、部活のコーチ、社長に対して感謝、尊敬するのです。

 

 

グルーミング: 慣れさせる

 

時に何日も何ヶ月もかけて性的なことに慣れさせていくのです。加害者は性的な虐待をいきなりやりません。思った以上に少しずつやっていくことが多いです。

時間をかける理由は、いきなり性的に触れて、拒絶されたり、人に言われたりすると、そこで関係が終わってしまうからです。長い時間をかけて関係を作ってきたのが無駄になってしまいます。慣れさせるグルーミングです。

 

④ 少しずつ近づく

加害者はこどもに少しずつ近づいていきます。握手する、腕に触れる、というようなことから身体接触を増やしていくのです。性的に触れていくのではないので、こどもは気づくことはありません。

腰に手を回したり、プライベートパーツ(胸や下半身)に近づけたりしていきます。こどもの境界線(バウンダリー)を試しているプロセスとも言えます。少しずつこどもに侵入していくことで、慣れさせていくのです。

ジャニー喜多川の場合はどうでしょうか。絶対的な崇拝される存在となっているため、このプロセスも短時間で済ませています。マッサージをする、肩をもんであげる、そうやって侵入していき、数分後か、数十分後には性加害を行っています。

時間をかける必要がないのです。ダメになったら他の少年がいるし、デビューしたい人は何百人といるから。性的な虐待をやり続けられる環境を作っているのです。

 

⑤ 普通にさせる

加害者は性的虐待を「普通のこと」と認識させるのです。他の子もやっている。自然なこと。というように語ることもあるでしょう。普遍化(ノーマライゼーション)と言ったりもします。

普通のことだと認識すれば、年齢が低ければ低いほど、おかしなことと認識できないのです。なんとなくダメなことと思っても、声をあげにくいのです。

ジャニー喜多川の事件だとどうでしょうか。「ジャニーさんに、そういうことをされる」というのがジュニアの間で浸透しています。デビューするには「普通のこと」なのだと。仕方ない必要な通過点なのだと。

芸能界、ジャニーズというある意味において一般の社会から隔離された世界にいるとなおさら普通と感じてくるのも自然です。

 

⑥ 性的なことに触れさせる

性的な虐待を普通のことと認識するためにも、性的なことに触れさせることもよくあります。アダルトDVDやポルノなどに触れさせるのです。性的なことは自然なこと、性的なことはよくあること、そういう「教育」をしていくのです。

ジャニー喜多川の場合は、性的に刺激するDVDや雑誌などを合宿所に置いていたようです。それをどれくらい見せていたのかは不明です。ジャニー喜多川のような絶対的な権力のない一般の加害者は、ありとあらゆる手を使って、こどもに性的なことに慣れさせていきます。

一般の加害者は、ジャニー喜多川のように何百人ものこどもにアクセスできません。1人2人をグルーミングして慣れさせていくという意味では、雑に扱うことはしないのです。少しずつわからないように性的なことが入ってくるので、被害者は抵抗しづらいのです。

 

 

グルーミング: 支配し続ける

 

性虐待は一度では終わりません、加害者は支配し続けるのです。何度も何度もです。何年もです。そのためにグルーミングをし続けるのです。支配し続けるためのグルーミングです。

 

⑦ ニーズを満たし続ける

加害者がこどもを性的搾取し続けるには、こどものニーズを満たし続ける必要があります。お金、関心、愛情、地位などを加害者は与え続けるのです。性的虐待が辛くても、それ以上に快楽を与えられると麻痺するのです。

ジャニー喜多川は性加害した次の日にエレベーターで1万円を渡す、これもこどものニーズを満たしているのです。加害者が自分の罪悪感を解消するのに渡していることもよくあります。次元は違いますが、芸人さんが多目的トイレでやった後にタクシー代を出す、なんてのもありましたね。

でも、ジャニーズJrにとって一番満たされることは、デビューすることです。デビューすることで自分の夢が叶い、周りから称賛されて自己肯定感が爆あがり。性的なトラウマの不快感も一時的には吹っ飛んで、麻痺される感覚がある人もいるでしょう。

でもふとした時に、家に帰って、気を緩めた時に、性被害を受けた不快な感覚や感情がフラッシュバックすることもあるでしょう。そんな時は、仕事に没頭したり、お酒を飲みまくったりするのです。性的トラウマや虐待を経験した人に依存症が多いのは、その時だけでも不快感を依存がやわらげてくれるからです。

性被害の痛みより、ニーズを満たしてくれる喜びや快楽を大きくするのです。そうやって支配していくのです。痛みと快楽の間で複雑な思いになることもあるでしょう。でも大きすぎる快楽を与え続けて、感謝させるのです。

 

⑧ 脅して秘密にさせる

必要があれば、こどもを脅します。脅す理由は性虐待の秘密をもらさないようにさせるためです。親に言われたら困る。だから誰にも言えないように洗脳する。「誰もお前のことは信じない!」「大人に言っても意味はない!」などと怖い表情で脅すのです。

このことを人に言ったらとんでもないことになる。悪いのは自分かもしれない。誰も信じてはくれない。嘘をつく必要があるのだと思い込ませるのです。だから、大人になって安心できる環境にいても、性被害のことを口にしにくいのです。

ジャニー喜多川は怒鳴ることもあり、怖かったようですね。優しくもあり、怖い存在でもあるのです。ジャニー喜多川の意思に反抗する態度をとった人には、「もう明日から来なくていいから」と言っていました。メディアに出れなくされた人も多いですよね。

それに加えて、彼自身がいつも脅す必要はないのです。他の大人がその役割をしてもいいのです。Jrたちの振付師がとんでもなく怖かったということもあったみたいですね。逆らえない大人、絶対的な権力をこどもに感じさせているのでしょう。

岡本カウアンさんは「ジャニーさんの性加害者は裁判で認められているのに、なぜ普通に暮らしているのだろう。もし性加害のことを人に話したら命も奪われるかもしれない」と思ったようです。そして何年も親に言えなかった、と記者会見で語ってくださいました。そんな中、性虐待のことを社会に語った、北公次さん、岡本カウアンさん達は、とても勇気のある行動をされたわけです。

さらにジュニアの報告では、ジャニー喜多川は性被害をした次の日には、そのことには全く触れずに、おはようと挨拶をするということでした。昨晩のことは「語ることではない」という空気を意識的にも無意識的にも作っていたのでしょう。

 

⑨ 共犯者にする

加害者はこどもに、「一緒にやっているんだ」という感覚をもたすこともあります。性虐待は、辛くもありながら、快感が伴うこともあります。どんな嫌な人にでも性的な刺激を受けると、興奮したり、射精することは体の自然な反応です。

その感じていることを加害者は利用するのです。「あなたも楽しんでいるんだ」「興奮しているじゃないか」などと言うのです。こどもにとってみると、自分も興奮したから、同じことをやっているんだ。そう思うのが自然です。加害者がこどもを共犯者にするのです。

ジャニー喜多川の場合はどうか。このプロセスもいちいちやる必要がないのです。雑に扱っても、次から次に少年たちがいるから。グルーミング帝国を作っていることで、「雑なグルーミング」でいいのです。

自分も共犯者であるという意識は、ジャニーズグループへの所属感が深まるほど強化されていきます。Jrから始まり、デビューする、最終的には社長になるなど経営側につく人も出てくる。ジャニーズのファミリーなのだという所属感が、よりいっそう性被害の告発を抑止するのです。

 


 

なぜ男性の性被害者は被害だったと認めにくいのか? 性的虐待と恥は深い関係があります。男なのにやられた、女々しいやつという恥を感じる人も多いです。

性的な快感を得てしまったという恥もあります。性虐待のことを認めたり、開示したりすることは、思った以上に難しいのです。なぜならすでにグルーミングされているのですから。

性虐待の体験は恥の感情を強めます。男性なのにということでも言いづらい上に、性虐待を受けた芸能人として世間から見られるから余計に言いづらい。何重ものバリアがあるのです。男性、芸能人という要因が恥を強め、性虐待体験の開示をきわめて難しくするのです 。

 

 

グルーミングされた日本国民

 

「関係性を作る」「慣れさせる」「支配し続ける」という3つの段階からなるグルーミングを解説しました。それぞれのステップが3つの要因で構成されているので「9ステップグルーミング」です。

加害者は意識的にも無意識的にも、この巧妙なグルーミングのプロセスを行なっているのです。巧妙であり、準備がいるという意味でも、衝動的にやってしまった犯罪に比べても、極悪です。絶対に起こってはダメなことです。

さらに、このジャニー喜多川のグルーミングのプロセスはジャニーズJrの親や家族も巻き込んでいきます。さらには、ジャニーズ事務所の人たち、ファンたち、関係するメディア、それを視聴する日本国民まで巻き込んだのです。ジャニーズのタレントが「You〇〇しちゃいなよ〜」といういい感じのキャラをTV視聴者にも植えつけるのです。関係する政治、企業、警察などもそうです。

ジャニー喜多川は自分の性欲や支配欲を満たすために、組織的にグルーミングのシステムを作っていったのです。システミックグルーミング、社会的グルーミングと呼んでも良さそうです。

このシステミックグルーミングの構造は、日本人のお上の意向に従う傾向、つまり権力の横暴に迎合しやすく、ことなかれ主義を保つ傾向によりに支えられているように感じます。ジャニー喜多川という権力者が続けてきたこどもへの性虐待という明らかな犯罪行為を、私たちは見て見ぬふりすることで間接的に支えてきたのではないでしょうか。

この全国規模のグルーミングでジャニー喜多川は日常的に50年以上にも渡って無実なこどもに性虐待をし続けたのです。推定で数百人、数千人以上のこどもに性的な虐待をやり続けたのです。それを日本社会は黙認し続けて、傍観者になり続けました。加害者のジャニー喜多川が死ぬまで、性暴力を止めることはできなかったのです。

こどもへの性虐待を容認するエンターテイメントを喜ぶ、恥を恥とも思わない日本社会でいいはずがありません。こどもへの性虐待は、絶対に許してはダメなのです。無実のこどもは絶対に何が何でも守っていくべきなのです。