なぜ何かの依存症になるのか?
人が依存する理由は様々な理由があります。ただ何となくやってみたことが、習慣化して何十年もやることになったとか。
例えば、若い頃、ふと周りに溶け込みたくてタバコを吸ってみたら、そのまま何十年も続けたというようなこともありますよね。
ここでは、トラウマや虐待を経験すると、何かに依存しやすい、という視点からお伝えしていきます。
その理由は、トラウマからくる嫌な感情や感覚に耐え切れなくて、依存によりその痛みを一時的に和らげるため。
とにかく嫌な感じを感じたいくない。これが根本的な理由だと思います。では、どのような依存があるのか?
ドラック依存
アルコール依存
過食症
セックス依存
マスターベーション依存
仕事依存
要するに、何かに依存するのは、いやな感じ(フラッシュバック)を隠したいだけ。依存の形はあまり関係ないです。何で隠そうが、目的は隠すということです。
よく虐待のサバイバーさんたちが口にするのは、依存という行為で続けているアルコールやセックス自体は好きでも何でもなく、どうでいいし、ただ単に過去の虐待の辛さから逃れたいだけ。
あるクライアントさんは「ドラッグなんて心の底からやりたいやつなんて1人もいない。みんなトラウマを一瞬でも忘れたいだけだ」と言う。
マヒさせたいだけなのです。決してその「行為」を喜んでいるわけではありません。
なので、その元の火種といいますか、トラウマの嫌な感覚を減らすことができれば、、、依存から比較的早くに抜け出す鍵になりそうです。
依存は根性で、自分の強い意志だけでどうにかなるものではない。そうカウンセリング現場で痛感します。ではいくつか依存の種類をみていきましょう。そうすることで、依存の実態、役割が見えてくると思います。
過活動の依存(仕事依存)
多くの虐待サバイバーは過活動であり、過覚醒です。常に何かをやっていないと落ち着かないし、過去のいやなフラッシュバックが出てくるのを感じたくないため、無意識的に忙しくしてしまう。
ホッと一息ついて、ボーっとすると過去のトラウマの映像や感覚を感じてしまうためです。一見落ち着いているように見えている時もあるかもしれないが、頭の中をフル回転させて考える行為をいているということもあります。
カナダにいた頃の、40代のあるクラアイントさんは、家に帰るといつも箱を作っていました。材料も紙や木など使い、きれいに色も塗る。
彼は言った「別に、箱でもイスでも何でもよかった。とにかくトラウマや嫌なことから気をそらすことが出来ればいい。今は箱だが違うことをはじめるかもしれない。」
ドラッグなどの薬物よりは健康的だが、毎晩、夜中まで体を酷使して、好きでもない物を作り続ける姿を想像すると心が痛みました。
深く洞察しながら彼は言った「ガレージで箱作りをしていることは、もしかしたら私の妻から距離を取りたかったのかもしれない。」
彼の加害者は女性であった。彼は自宅では被害者のロールを取り、家族に意見することなどありませんでした。
意見すること、想いを伝えることは危険だと強く信じていたのです。でも回復していく中で、あるグループのセッションで彼は胸を張って言いました。
「グループに来はじめてから皆さんから勇気をもらった。この間は、妻の言いなりにならず、自分の見たいテレビ番組を見た。」
この時、彼が自分の主張を初めてできたんです。このことがきっかけで彼の「箱作り」の時間は少しずつ減っていきました。
薬物、ドラッグ依存
薬物依存とトラウマの関係は明白です。薬物依存になるサバイバーさんは、どのような傾向があるのか?
アルコールなどにみられるダウナー系(気分を鎮めるもの)の薬物があります。反対にハイになる薬物もあります。
性的虐待の内容(その時の精神状態、対処の仕方)に関係していることもあります。ダウナーを使うクライアントも結構おられました。
ダウナー系の薬物を使うと、性被害の時の解離状態に似ている言う。
というのは、性的な虐待があまりにも辛すぎて、感じなくする機能が脳にあるということです。
被害当時はオピオイドなどの脳内麻薬が出ていたのだと思います。オピオイド系の脳内麻薬というのは、鎮痛剤みたいなものです。
要するに、ダウンナーを使って、解離していた時の精神状態を薬物によって再現しているとも考えられます。
何もしてなくても、過去の被害体験がフラッシュバックして出てくるわけですよね。
それが耐えがたくなってダウナーなどに頼ってしまって、薬物依存になることもあります。これはアルコール依存でも同じようなパターンがあると思います。
ダウナーなどの薬物によって解離の状態を誘発させ、いやな感じから「その時だけ」解放されるような感覚でしょうか。
カウンセリングで依存のパターンを明確にする
性依存のパターンを説明する。
1.人の頼みを断ることが出来ず、嫌なことをするはめになる
2.へこんで気分が悪くなる
3.この気分を感じるのが嫌でとにかく強迫的に行動する
4.疲れ果て、酒や薬物を使う
5.性被害の時の解離した状態(ふわっとして判断できない)になる
6.性的な依存行為をする
7.終わった後は、自責と疲労感
8.そして、また他人に利用され嫌な気分になる
このようなパターンはよくあります。このパターンを何周も、何十周もぐるぐる周り、繰り返します。ただ、このようなパターンはなかなか変わらないです。
というより無理に変えようとセラピストが介入的になるよりは、このパターンをとにかく明確にするということ。まずは頭でそういうパターンがあるということを知る必要があります。
頭でわかるだけでなく、身体感覚を育てたり、マインドフルネスをやっていくと、このパターンを繰り返している自分を第三者的に見つめることが出来てくる。
カウンセリングでは、性依存の行為の直前は何を感じていたのか、その前は、その前は、というように気づくところまで聞いていく。その「一番初めの感じ」をつかまえることが出来れば回復に繋がっていきます。
依存のパターンをもう一つお伝えします
さっきのパターンだけではピンとこない方もいると思ったので。
こんなパターンもあります。人に上からものを言われる。頭が混乱する。呼吸が浅くなり、忙しく行動する。イライラする。
胸が窮屈になり怒りが出てくる。そのうち悲しくなってへこむ。そして寂しさに我慢できなくてまたイライラしてくる。
もうどうでもよくなりお酒を飲む。記憶が飛ぶまで飲んで、次の日はつらくて罪悪感。
なかなかこのようなパターンをしっかり観察することは難しかったりします。はっと気が付けば酔っ払ってたり。次の日になってたりする。まずは少しでもいいから観察することからです。
カウンセリングでは、よくクライアントさんには、別に依存をすぐにやめる必要はないことを伝えることもあります。
やめることよりも、ただ何が起こっているのか、何を感じているのかに注目して下さいとお伝えする。「パターンをつかむ」のはどんな依存であっても役立ちます。
結局、依存は「感じること」「トラウマのフラッシュバック」を避けるという行為。
カウンセリングで少しずつ体の感覚を育てたり、フラッシュバックを減らしていくと、少しずつ依存から抜け出せるようになっていくことが多いです。
依存症状の対処法
依存から回復するのに、大事なアプローチをいくつかお伝えします。
- 依存に関しては解決志向(Solution Focused) のアプローチを活用することが多いです。その理由は、依存などからの現状から「変化」を促す療法として最適な1つのアプローチだからです。もちろんこれだけで依存が解決するわけではありませんが、支援者であれば知っておきたいアプローチです。問題に意識を向けるより、解決したらどうなるのか? を聞いていく。依存にハマってない時はどんな状態なのかを広げていくというようなことです。
- もう一つは、Harm Reduction model も大事になってきます。何十年もアルコールやドラッグなどの依存にあるクライアントはなかなかすぐに依存から抜け出すのは大変です。例えば、完全な断酒をすぐに目的とするのではなく、少し飲む量を減らすとか、飲むパターンが変わるようにカウンセリングを進めていくというようなアプローチです。飲む量はさほど変わらないが、飲み方が変わり、あまりおいしくないと感じたりすることもあります。そう出来るようにサポートしていきます。
- さらに、マインドフルネスも注目です。セッション中、マインドフルネスを促すワークをどんどんすることで、「今」を感じることに慣れてきます。依存に行動化する直前の痛み、気分、怒り、悲しみ、身体感覚などを捉まえる事が出来るようになってきます。
- もう一つ大事なポイントは、不健康な依存を健康的なものに変えていくサポートです。例えば、お酒を飲むのを我慢して、運動をする習慣をつけるなどです。
依存から抜け出すことは、本当に苦しいし、戦いのようなものかもしれません。やるかやらないか、、、というように葛藤が永遠と続くような。ただ、依存から回復することは可能だとあえてお伝えしたいです。